憎気にくげ)” の例文
「本人がそう言うんだから、花房探偵憎気にくげが無いよ、——斯うなると兄貴の名誉のために、神聖なる恋人の名前は発表しなきゃなるまいな、——驚くなよ」
笑う悪魔 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
遠山えんざんまゆを逆立てたさまが、怒れる羅浮仙らふせんのように凄艶に見えた。玄蕃は憎気にくげな歯を見せてせせら笑った。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
元来緑雨の皮肉には憎気にくげがなくて愛嬌あいきょうがあった。緑雨に冷笑されて緑雨を憎む気には決してなれなかった。
斎藤緑雨 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
彼は型のごとく唐人笠をかぶって、怪しげな更紗さらさの唐人服を着て、飴の箱を地面におろして、両手をあげて踊っていたが、色の小白い、眼つきのやさしい、いかにも憎気にくげのない男であった。
半七捕物帳:54 唐人飴 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)