御坂峠みさかとうげ)” の例文
又その前は、甲州御坂峠みさかとうげの頂上の、茶店の二階を借りて住んでいたのである。更にその前は、荻窪おぎくぼの最下等の下宿屋の一室を借りて住んでいたのである。
無趣味 (新字新仮名) / 太宰治(著)
御坂峠みさかとうげ風越峠かざこしとうげなぞの恵那えな山脈一帯の地勢を隔てた伊那の谷の方には、飯田いいだにも、大川原にも、山吹やまぶきにも、座光寺にも平田同門の熱心な先輩を数えることができる。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
甲府からバスに乗って御坂峠みさかとうげを越え、河口湖の岸を通り、船津を過ぎると、下吉田町という細長い山陰やまかげの町に着く。この町はずれに、どっしりした古い旅籠はたごがある。
律子と貞子 (新字新仮名) / 太宰治(著)
恵那山えなさんの裏山つづきに御坂峠みさかとうげというところがあります。木曾きその御坂とはその峠のことです。
力餅 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
あくる朝は、からりと晴れていたので、私は友人とわかれてバスに乗り御坂峠みさかとうげを越えて甲府へ行こうとしたが、バスは河口湖を過ぎて二十分くらい峠をのぼりはじめたと思うと
服装に就いて (新字新仮名) / 太宰治(著)
阿佐あさの病室。経堂きょうどうの病室。千葉県船橋。板橋の病室。天沼のアパート。天沼の下宿。甲州御坂峠みさかとうげ。甲府市の下宿。甲府市郊外の家。東京都下三鷹町みたかまち。甲府水門町。甲府新柳町。津軽。
十五年間 (新字新仮名) / 太宰治(著)
N君とは、去年の秋、私が御坂峠みさかとうげへ仕事しに行ったときからの友人である。こんど、東京の造船所に勤めることになりました、と晴れやかに笑って言った。私はN君を逃がすまいと思った。
酒ぎらい (新字新仮名) / 太宰治(著)
甲州の御坂峠みさかとうげの頂上に、天下茶屋という、ささやかな茶店がある。私は、九月の十三日から、この茶店の二階を借りて少しずつ、まずしい仕事をすすめている。この茶店の人たちは、親切である。
富士に就いて (新字新仮名) / 太宰治(著)