彼方是方あちこち)” の例文
と岸本が言ったので節子は彼方是方あちこちつぼみを探したが、彼女の取ろうとするのはいずれも彼女の手の届かないところにあった。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
お雪は白い寝衣ねまきのままで、冷々とした夜気に打たれながら、彼方是方あちこちと歩いていたが、夫の声を聞きつけて引返して来た。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
彼方是方あちこちとお種は転々して歩いた。森彦の宿に二週間ばかり置いて貰って、寺島の母が国へ帰った頃に、ようやく嫁の方へ一緒に成ることが出来た。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
丁度夕飯時で、見物は彼方是方あちこちへ散じたが、御輿の勢はかえってはげしく成った。それが大きな商家の前などを担がれて通る時は、見る人の手に汗を握らせた。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
近所の「叔父さん」達が総掛りで何故庭の内をけ廻るか、彼方是方あちこちから飛んで来た犬が何故え立てるか、それを知らせに来るほどお菊も物が解って来た。
芽生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
三吉は本箱の前を彼方是方あちこちと見て廻った。その時、彼は未だ自分の生れた家の焼けない前に一度帰省して阿爺おやじの蔵書を見たことを思出して、それをこの家のに比べてみた。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
主人は大人らしい威厳を帯びた容子で捨吉の立っている側を彼方是方あちこちと歩いた。どうかすると向うの花畠の隅まで歩いて行って、そこから母屋おもやの方を振返って見て、復た捨吉の方へ戻って来た。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
執事が赤い小形の讃美歌集を彼方是方あちこちと配って歩いた。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)