彷徨ぶらつ)” の例文
自分にも市中を彷徨ぶらついてみたりしたが、自分の智識が許しそうな仕事で、一生懸命になり得るような職業はどこにも見当らなかった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
高岡に彷徨ぶらついていたって始まらんので、金沢には士官がいるから、馬丁べっとうの口でもあるだろうと思って、さがしに出て来た。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
何処かヲルフに似たやうな、饑死をし掛つた犬が一匹、家の周囲まはり彷徨ぶらついて居るから、名を呼んで見ると、厮奴きやつは歯を露出むきだして、噢咻うなつて逃げて仕舞ひました。
新浦島 (新字旧仮名) / ワシントン・アーヴィング(著)
お庄は馬車を降りると、何とはなし仲居の方へ入って行ったが、しばらくそこらを彷徨ぶらついているうちに、四下あたりがだんだんけて来た。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
晩方K—が、ぶらりと入って来たころには、甥と一緒に、外を彷徨ぶらついて帰って来た笹村が、薄暗い部屋の壁にりかかって、ぼんやりしていた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
不安な一夜を、芝口の或安旅籠やすはたごに過して、翌日二人は川西へ身を寄せることになるまで、お島たちは口を捜すのに、暑い東京の町を一日彷徨ぶらついていた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
お庄は帰りにそっちへ廻って、人込みのなかを子供を負ったり歩かせたりして彷徨ぶらついていた。土のにおいと油煙と人瘟気ひといきれとで、呼吸いきのつまりそうな通りをおりおり涼しい風が流れた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
壺は植木屋の幸さんが、ひもで首から下げて持って行った。その後へ叔父とお庄の俥が続いた。三人は帰りにはすの咲いている池のはた彷徨ぶらつきながら、広小路で手軽に昼飯などを食ったのであった。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)