幽鬼ゆうき)” の例文
終戦に近い断末魔のころ、疎開先の山村に配属されて来た彰義隊式の兵隊が、幽鬼ゆうきの歌みたいに歌っていたのが思い出される。
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼はもはや人間を眺める目に遠近を失っていたのだ。支柱を失った人間は、彼には影を失った幽鬼ゆうきに過ぎなかった。皆支柱を失っているのではないか。幽鬼の行為に美醜がある筈がない。
日の果て (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
一向堂の縁からしゃがれ声をふりしぼッて呼ばわる糟谷三郎の声に、どれもこれも幽鬼ゆうきのような血みどろ姿がよろめきよろめき集まって来た。
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今や全城の士気は沸くばかりであったにせよ、どれもこれも、幽鬼ゆうきのような籠城やつれだったのはぜひもない。
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
石も草も木も蕭々しょうしょうと物みないているようで、しかもその幽鬼ゆうきがみな自分を指さしてささやく。
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)