年歯としは)” の例文
旧字:年齒
それをただ年歯としはの行かないためとのみ解釈した御常の観察は、むしろ簡単に過ぎた。彼は心のうちで彼女のこうした態度を忌みにくんだのである。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
竹「何卒どうぞしておとゝに会いたい、年歯としはもいかない事であるから、また梅三郎にあざむかれて、途中で不慮の事でも有ってはならん」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
そのとき次郎右衛門の年歯としはもまだ壮年だったから、修行中、安房の夷隅いすみ郡にのこしてあった老母も、やがて彼の新邸に迎えられたであろうし、以後、いよいよ道に研鑚けんさん
剣の四君子:05 小野忠明 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そなたは年歯としはも行かぬことなり、まして女子のことでもあるから、萬一敵に見出されてもあながち無慈悲には扱うまい、兎に角此の場は最期を急がず、逃げられるだけ逃げて見よ
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
まだおそらく十か十一くらいの年歯としはだろうと思われるのに、手おけを片手にしながら、さっさと井戸ばたへ出ていったものでしたから、鼻をつままれて少しくぼんやりとしてしまったものは
「それがよい」「それがよい——」とこだまのように他の声が応じていた。年歯としはも行かないものに大人の労苦は重すぎると思うのだ。自分が背負わされる分には、重ければ重いほど力んでも見せよう。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
年歯としはも行かない同士の無分別から起ったこととすれば、責められてよいのは監督不行届な両方の家庭で、少くともこいさんについては、兄さんは勿論もちろん私にだって一部の責任がないとは云えない
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)