尺八たけ)” の例文
その時——それは、ひよく音に似たような、哀れに淋しい尺八たけの調べが、林の静寂しじまに低くふるえて、どこからともなく聞こえてきた。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ここは、勤詮派きんせんはの虚無僧が足だよりとする宿寺しゅくじであるので、境内へ入ると、稽古の尺八たけ一節切ひとよぎりの音がゆかしくもれて聞こえた。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あれからも二度三度、立慶河岸りっけいがしのお茶屋に上がって、一節切ひとよぎりぬしを待つ夜もあったが、とうとうそれきりその尺八たけもその影すらも見かけない……。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お綱の恋慕、お米の吐く血、二ツの女のたましいが、おののくごとくむせぶごとく、尺八たけの細音にからんでいるよう……。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)