安坐あぐら)” の例文
そして、バンドも何もついてゐない古い学生帽を両耳をかくす位に深くかむつて(火の粉が飛ぶからである、)父親に代つて鞴の前に安坐あぐらをした。
南風譜 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
父は大きな安坐あぐらをかいたまま煙草をのんで、別な方を見ていた。——母は健を見ると、いつになくけわしい顔をした。
不在地主 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
七八置いてもくにせぬといふを、自慢の男なり。無遠慮に、傍近く、安坐あぐらかくを、お園は眼立たぬやうに避けて『おや吉蔵さん、お前さんもう、気分は好いの』
したゆく水 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
与平はシャツを着て、着物をかたに羽織ると、炉端ろばたに上って安坐あぐらを組んで煙草たばこを吸った。人が変ったように千穂子が今朝けさもどって来てからと云うもの、むっつりしている。
河沙魚 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
わざと大袈裟にバタンと転げて安坐あぐらをかいた。
竹藪の家 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
なるべく大きく安坐あぐらをかき、それから肱を張つて、飯を食ふ——時々、兄の方を見ながら、自分の恰好を直した。
防雪林 (旧字旧仮名) / 小林多喜二(著)
大きく安坐あぐらをかいて、両手をはすがいにまたに差しこんでムシッとしているのや、ひざを抱えこんで柱によりかかりながら、無心に皆が酒を飲んでいるのや
蟹工船 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
物なれたゆるい安坐あぐらをかいて、地主が坐っているのを見ると、外で見たときとはまるで異った——岸野の存在がその部屋一杯につまって、グイと抑えつけているように感じた。
不在地主 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
源吉は、一層無口に、爐邊に大きく安坐あぐらをかきながら、「見たか!」と、心で嘲笑つた。
防雪林 (旧字旧仮名) / 小林多喜二(著)
彼等は荷物を蟹臭い節立った手で、わしづかみにすると、あわてたように「糞壺」にかけ下りた。そして棚に大きな安坐あぐらをかいて、その安坐の中で荷物を解いた。色々のものが出る。
蟹工船 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
雑夫が、漁夫、船員の間に、引張りだこになった。「安坐あぐらさ抱いて見せてやるからな」
蟹工船 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
私は机の前に大きな安坐あぐらをかいた。
党生活者 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)