委曲いきょく)” の例文
「堺での我々の挙動には、功はあって罪はないと、一同確信しております。どう云う罪に当ると云う思召か。今少し委曲いきょくに御示下さい」
堺事件 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
さいわいにも多肉質の皮が存しているために、これが賞味しょうみすべき好果実として登場しているのであるが、しかしこの委曲いきょく知悉ちしつしていた人は世間せけんに少ないと思う。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
いまもって恐ろしい悪夢からさめきれないほどである——と書面は委曲いきょくをつくしていた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
キリストのような顔をした若い助教授は、こんなに委曲いきょくをつくしたのではなかった。
キャラコさん:04 女の手 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
諸人委しく其事を語らせんとすれども、辞を左右にたくして言はず。委曲いきょくを告ぐれば身の上にもかかわるべしとのいましめを聞きしとなり。四五年を経て或人に従ひ江戸に登りしに、又道中にて行方ゆくえ無くなれり。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「証人は、あたしよ。あなたと兄は、この春から秘密に結婚していたことを、婦人雑誌向きにちゃんと小説体で書いてあるの。……さっきの手紙よりも委曲いきょくをつくしているつもりよ」
キャラコさん:05 鴎 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)