妻楊枝つまようじ)” の例文
昨日きのうまでは、剣術大名司馬道場の御後室様として、出るにも入るにも多勢の腰元にとりまかれ、妻楊枝つまようじより重いものは持ったことのないお蓮様。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
ガラッ八は自分の懐みたいな顔をして、鷹揚おうように勘定をすると、若干なにがしか心付けを置いて、さて妻楊枝つまようじを取上げました。
あの人はエストニア孤児救済委員会の委託金を着服してそれで亜米利加アメリカから理想アイデアル印しの妻楊枝つまようじを輸入したのです。そのために青煙突ブルウ・ファネルのやくざ船をすっかり傭船チャアタしました。
踊る地平線:09 Mrs.7 and Mr.23 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
妻楊枝つまようじ位な細い茎の薄青い色が、水の中にそろっている間から、陶器やきものの模様がほのかに浮いて見えた。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
妻楊枝つまようじでそれをほじくりながら、あのウネの長さも更に伸び、数も三本から五本と殖えてくるだろうということを、私は漠然と考えたが、その感じも奥歯にはさまったような具合で
庭の眺め (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
彼は、寝床の縁板へりいたのすみに、セルロイドの妻楊枝つまようじを作って置いてあった。それは歯のためにいいだろうと、彼は自分で思い込んでいた。彼はまた、それへ目をつけた。これはどうしよう。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
そのくせ、昼食時のサラリーマンの散歩姿は、みんな妻楊枝つまようじを咥えて歩いている。ズボンのポケットに一寸手をつっこんで、カンカン帽子をあみだにかぶり、妻楊枝をガムのようにんでいる。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
妻楊枝つまようじ、日に三十本は確実、尖端をしゅろの葉のごとくちぢに噛みくだいて、所かまわず吐きちらしてあるいて居られる由、また、さしたる用事もなきに、床より抜け出て、うろついてあるいて
虚構の春 (新字新仮名) / 太宰治(著)
大震災の直後には、針がなくて妻楊枝つまようじを削ってとがらせてみたこともある。
胡堂百話 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)