奸黠かんかつ)” の例文
あれ以来、ますます人相にも奸黠かんかつの度を加えてきた、セルカークをあわれむようにながめている。ただ、氷河の氷擦が静寂しじまを破るなかで……。
人外魔境:10 地軸二万哩 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
その奸黠かんかつなる工事は、もとよりいかなる係蹄わなをも許す戦争ではとがむべきことではないが、いかにも巧みになされていたので
ラサリーリョ少年が奸黠かんかつ座頭ざとうの手引きとなって連れて行かれる途中で、橋飾りの牡牛おうしの石像に耳をつけて聞けばどえらい音がしているといって
十九の娘が、かくも大胆に、かくも奸黠かんかつに、私をあざむいていようとは! ナオミがそんな恐ろしい少女であるとは、今の今まで、いや、今になっても、まだ私には考えられないくらいでした。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
ですからじきに人工であるということが発見された。そこでこういうものをもって人を欺いて金を取る奸黠かんかつな手段がこの仏教の盛んなチベット国において行われて居るというのは実に奇態である。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
それは昨年の十月二十九日陰険奸黠かんかつな英帝国の対支策謀の事実が次から次へと暴露してちょうどこの日赤坂三会堂における第三回の排英大会に我が日本国民の血潮が沸騰し切っていたその当日のことであった。
ナリン殿下への回想 (新字新仮名) / 橘外男(著)
奸黠かんかつな商売の金庫に光空しく死せども
象徴の烏賊 (新字旧仮名) / 生田春月(著)
三伝が生きて——もしそうだとしたら、たぶんあるにちがいない奸黠かんかつあやのなかに、船場の遺書も自分の苦悶も、みな筋書のようにして織り込まれているのではないだろうか
地虫 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)