多愛たわい)” の例文
急に今まで感じていた、百万石の勢力が、この金無垢の煙管の先から出る煙の如く、多愛たわいなく消えてゆくような気がしたからである。……
煙管 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「馬鹿な! もう日が暮れかゝつて居るぢやないか。」と、敬吉は、女の多愛たわいのない態度を叱責した。
海の中にて (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
しかしふと気がついて見ると、店の前には女が一人、両手に赤子を抱へたまま、多愛たわいもないことをしやべつてゐる。
あばばばば (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
が、彼がまだ手さえかけない内に、猪首の若者は多愛たわいもなく砂の上にのめりながら、岩にひしがれる骨の音と共に、眼からも口からもおびただしくあざやかな血をほとばしらせた。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)