とっ)” の例文
とベタ一面に鉛筆を走らせた藁半紙わらばんしを署長の鼻先につきつけたのは、もうとっくに帰ったものとばかり思っていたK新報社長の田熊だった。
人間灰 (新字新仮名) / 海野十三(著)
普通ならばとっくにもう花も変えて生けかえるべきものを、いつまでも水仙を生けたままでほうって置いてあったものとすると
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
そして彼女の姿がとっくに見えなくなってしまったあとも、なおそのまま根が生えたように立ちつくしていた。
トリスタン (新字新仮名) / パウル・トーマス・マン(著)
画で云えば、未来派、構成派、感覚派、印象派なぞいう式の表現のなやみはとっくの昔に通過してしまった。
能とは何か (新字新仮名) / 夢野久作(著)
今障子に落書は残っていても、その人はもうとっくに醒めているのである。唯その憂いとか不平とかを落書として障子の上に残して置いたまでである。
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
つまりあんたは生きていると思っているらしいけれど、本当はとっくの昔死んでしまっているのよ。女房殺しの罪で死刑になったんじゃありませんか。ホ、ホ、ホ、ホ
殺人の涯 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「そんな筈はない。もう交番の旦那はとっくに見えてるんだ。由蔵にきたいことがあるって、待ってるんじゃないか。ええ、それより早く蒲団を持って来いというに——」
電気風呂の怪死事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
あなたの血液型なんかその喀痰かくたんからして、もうとっくの昔に判っていることでしょうよ
振動魔 (新字新仮名) / 海野十三(著)