塵埃ちり)” の例文
「よツぽど早うおましたで、ちいと増してやつとくなはれ。」と、ろくに汗もかゝねば疲れた風もなくて、車夫は腿引もゝひき塵埃ちりを沸ひ/\言つたが
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
塵埃ちりが山のように積っていたが、ほうきをかけ雑巾ぞうきんをかけ、雨のしみの附いた破れた障子をり更えると、こうも変るものかと思われるほど明るくなって
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
青褪めて鬚を生やして、塵埃ちりまみれの草履ぞうりを穿いた吾が姿を見て私は笑うことも出来なかった。
あやかしの鼓 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
オルガンが講堂の一隅かたすみ塵埃ちりに白くなって置かれてあった。何か久しぶりで鳴らしてみようと思ったが、ただ思っただけで、手をくだす気になれなかった。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
朝倉星雲氏の手にて製作中と伝えられおりし同校長の頌徳寿像しょうとくじゅぞうの、塵埃ちりと青錆とに包まれたる青銅胸像が、白布に包まれたるまま同下宿、森栖氏専用の押入中より転がり出で
少女地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
テニスをやるものもないとみえて、網もラッケットも縁側の隅にいたずらにたばねられてある。事務室の硯箱すずりばこふたには塵埃ちりが白く、椅子はテーブルの上に載せて片づけられたままになっている。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)