塗駕籠ぬりかご)” の例文
そして祈祷きとうがすむと、黙々と、供の列や塗駕籠ぬりかごの待っている海辺の松並木まで、在りし日の人を胸に思いながら歩いて帰ることもきまっていた。
「……あの……黒い塗駕籠ぬりかごの中に紫色の被布ひふを召して、水晶のお珠数じゅずを巻いた手であの花をお渡しになりました。挟箱はさみばこ持った人と、怖い顔のお侍様が一人おともしておりました」
斬られたさに (新字新仮名) / 夢野久作(著)
数日ののち、今浜から蜂須賀はちすか彦右衛門の一行が着いた。迎えの役としてである。老母と寧子ねね塗駕籠ぬりかごに乗せられた。前後についてゆく将士の装いも平和である。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
久しぶりに見る塗駕籠ぬりかごであった。家臣も侍女も、表向きにいて来た。
長浜の絹、琵琶湖びわこの鮮魚など、心をこめた土産の数々を、荷駄組にだぐみの武士に運ばせ、彼女は、華麗な奥方用の塗駕籠ぬりかごに、多くの侍女や侍を従えて岐阜に赴いた。主君に会って、使いを果してからである。
日本名婦伝:太閤夫人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、一挺の塗駕籠ぬりかごが、そこの門を、何気なく出て行った。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)