吃水線きっすいせん)” の例文
この五寸という空間の占有量は、それが支那人に対する歓心とはならず、運送船の吃水線きっすいせんを深めることに役立っただけだった。
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
船籍、ブエノス・アイレスと白ぺいんとが赤錆あかさびで消えかかって、足の下の吃水線きっすいせんには、南あめりかからくっ附いて来た紫の海草が星と一しょに動いていた。
と笑いながら船首の吃水線きっすいせん下に投げ付けた。……トタンに轟然たる振動と、芸者連中の悲鳴が耳も潰れるほど空気をつんざいた。それを見上げた友吉おやじは又も
爆弾太平記 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
吃水線きっすいせん以下と上甲板とが密房組織の二重張になった。何でもない工夫のようだが、技師ブランネルが、有名なメネー管橋の橋梁工事の経験から案出したものである。
黒船前後 (新字新仮名) / 服部之総(著)
歯のしろい少年は、沈黙って侘し気に笑っていた。私たち三人は手をつなぎあって波止場の山下公園の方へ行ってみる。赤い吃水線きっすいせんの見える船が、沖にいくつも碇泊ていはくしていた。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
黄色の煙突、白い船室、まっ黒な船腹せんぷく、波の間からちらりとみえる赤い吃水線きっすいせん、すんなりと天にのびたほばしら——どれもこれも絵のようにうつくしい。見たところ、平和そのものである。
幽霊船の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)
その船の吃水線きっすいせんに潮が盛り上ると、空には薄い月が出た。
風琴と魚の町 (新字新仮名) / 林芙美子(著)