取手とりで)” の例文
句風以外の特色をいはんか、鳥取の俳人は皆四方太しほうだ流の書体たくみなるに反して、取手とりで下総しもうさ)辺の俳人はきたなき読みにくき字を書けり。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
我孫子あびこから利根川をひとつ越すと、こゝはもう茨城県で、上野から五十六分しかかゝらぬのだが、取手とりでといふ町がある。
居酒屋の聖人 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
またあるときは、神崎向こう地から小見川まで歩いて、バスで取手とりでへ出て帰ったこともあり、常磐線藤代駅から竜ヶ崎まで行き、そこから長竿、浄玄橋から新利根を水神、中神、幸田橋まで歩いた。
江戸前の釣り (新字新仮名) / 三遊亭金馬(著)
次の作品を書くために利根川べりの取手とりでというところに部屋をかりて移り住んだが、心にもなく、短篇小説をかいたり
世に出るまで (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
東京のあの街やこの街にも一人で住み、京都でも、茨城県の取手とりでという小さな町でも、小田原でも、一人で住んでいた。
日本文化私観 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
つづいて茨城県利根川べりの取手とりでといふ町に住み、寒気に悲鳴をあげて小田原へ移り、留守中に家が洪水に流されて、再び東京へ住むやうになり、冬がきて
ぐうたら戦記 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
私が取手とりでといふ小さな町に住んでゐたとき、私の顔の半分が腫れ、ポツ/\と原因不明の膿みの玉が一銭貨幣ぐらゐの中に点在し、尤も痛みはないのである。
いづこへ (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
私が取手とりでという小さな町に住んでいたとき、私の顔の半分がれ、ポツポツと原因不明のみの玉が一銭貨幣ぐらいの中に点在し、もっとも痛みはないのである。
いずこへ (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
私は以前、取手とりでという利根川べりの小さな町に住んだことがあった。ここは阪東三十三ヵ所だか八十八ヵ所だかの札所で、お大師参りの講中というものがくるのである。
安吾巷談:12 巷談師退場 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
茨城県の利根川べり、取手とりで界隈ではこの居酒屋のコップ酒を「トンパチ」という。この辺では昔からの通称らしい。トンパチは「当八」の意だと土地の連中は云っている。
明日は天気になれ (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
京都伏見ふしみの弁当仕出し屋の二階に住んでいた頃は最も太平楽、利根川べりの取手とりでにいた時は水だけ飲んで暮さねばならないことが時々あったが、その思い出も楽しいものだ。
青い絨毯 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
時に取手とりでへ一年、又、小田原へ一年というグアイに、放浪生活を送ったのも、自らは意識せずに対症療法を行っており、無自覚のうちに、巧みに発病をそらしていたのかも知れない。
わが精神の周囲 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
私を取手とりでという町へ住ませた本屋のオヤジも釣り狂で、むつかしいことを言うのが好きであった。井伏鱒二なども微妙なことを言うのが好きであるから、釣り師の心境であるかも知れない。
釣り師の心境 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)