刀禰とね)” の例文
広野の中に刀禰とねの大河が流れていた。こも水葱なぎに根を護られながら、昼は咲き夜は恋宿こいするという合歓ねむの花の木が岸に並んで生えている。
富士 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
刀自にはまれ内侍所ないしどころの刀自のように結婚をせぬ者もあって、語の本義はただ独立した女性を意味し、すなわち男の刀禰とねに対する語であったかと思われるが、普通の用い方は家刀自いえとじ
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
世良田三郎の刀禰とねの内君には……聞けよ、この母の言葉を,見よ、この母のきぬを。
武蔵野 (新字新仮名) / 山田美妙(著)
刀禰とねの流れは銀色を帯び、渡って来た、秋鳥も瀬のに浮ぶようになった。筑波山の夕紫はあかあかとした落日に謫落たくらくの紅を増して来た。稲の花の匂いがする。
富士 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
前には刀禰とねの大河が溶漾ようようと流れていた。上つ瀬には桜皮かにわの舟に小檝おがいを操り、藻臥もふじ束鮒つかふなを漁ろうと、狭手さで網さしわたしている。下つ瀬には網代あじろ人が州の小屋にこもって網代にすずきのかかるのを待っている。
富士 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)