凝集ぎょうしゅう)” の例文
しかもなお、この猿の形をした大きな存在が地上の生活に役立つものとなるためには、五行山の重みの下に五百年間押し付けられ、小さく凝集ぎょうしゅうする必要があったのである。
のみならず、西海の反師直がたも、みなその一幕下に凝集ぎょうしゅうされ、尊氏の意図は、かえって思いもしなかった自分からの離反者を漠々ばくばくたる彼方に見出だす結果となっていた。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それは静かに、円周を描くようにひろがり、やがてじりじりと一点に凝集ぎょうしゅうし、はっきりとその形をあらわした。甲斐はじっと坐ったままでいて、やがて低く、口の中でささやいた。
亡妻への追慕、虚妄化された幸福、今の味気ない日常、世俗的な幸福への漠然たる嫉妬、それらの混然たる総量が、幻の痣を核としてぎっしりと凝集ぎょうしゅうしてしまったというわけでした。
Sの背中 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
倒逆し凝集ぎょうしゅうした彼の顔の背後にも、精神病院の灰色の建物がうつっている筈であった。写真は不馴れと見えて、中山は首をかしげたり、機械を傾けたりして、なかなかはかどらなかった。——
黄色い日日 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)