内密話ないしょばなし)” の例文
やっとしてから、巡査が、死骸の方を見ぬ様に顔をそむけたままで、何か人に聞かれては悪い内密話ないしょばなしみたいに、低いしわがれ声で云った。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
これより先、下の座敷では、いったん出かけて行った金公が、またコソコソと立戻って来て、お倉婆あと内密話ないしょばなしを試みている。
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
なるほど二人は内密話ないしょばなししながら露しげき田道をたどりしやも知れねど吉次がこのごろの胸はそれどころにあらず、軍夫ぐんぷとなりてかの地に渡り一かせぎ大きくもうけて帰り
置土産 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
第一にその内密話ないしょばなしを聞いたのは、彼女の腰巾着ぎんちゃくたるリュシアン・レヴィー・クールだった。そしてレヴィー・クールは、それを秘密にしておく理由を少しももたなかった。
『何か、内密話ないしょばなしがあるっていうから、二階を貸してやったまでさ』
魚紋 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「そうとも。きっと何だろう、店先へ買物にでも来たような風をして、親方の気のつかねえように、何かボソボソお上さんと内密話ないしょばなしをしちゃ、帰って行くんだろう。なあ、どうだ三公、当ったろう?」
深川女房 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
仮令たとえ内密話ないしょばなしでなくとも、彼等の会話を他人に聞かれる気遣きづかいはなかったのだが、それを更らにヒソヒソ声になって囁き合っていたのは、余程よほど秘密の相談であったとは想像出来る。
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
その間には、芸妓、幇間ほうかんを揚げて盛んに騒いでいる客もあります。一つの間に、たった一人で、しきりに義太夫を語っている者もあります。ひそひそと内密話ないしょばなしをしている者もあります。
大菩薩峠:19 小名路の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
しかし、二人は湯殿の中で、内密話ないしょばなしをしているわけではなく、平常、座敷でする通りの熟しきった会話を取交しているに過ぎないから、ところが湯殿だとはいえ、邪推をする余地は少しもありません。
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)