亢進こうしん)” の例文
病気が亢進こうしんしたり、あるいは飛行機がおちたり汽車が衝突したりする「悪日」や「さんりんぼう」も、現在の科学から見れば、単なる迷信であっても
藤の実 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
医者のことばによると、肺病の劇烈な症状亢進こうしんも、やはり知的能力の混乱に影響するとのことである。
私の赤黒い変な顔を見ると、あまりの事に悶絶もんぜつするかも知れない。悶絶しないまでも、病勢が亢進こうしんするのは、わかり切った事だ。できれば私は、マスクでも掛けて逢いたかった。
(新字新仮名) / 太宰治(著)
なぜなら私は、脂肪過多の結果心臓が弱くなつてゐて、神経性の心悸亢進こうしん症を起してゐたらしく、やゝともすると動悸が激しく打ち出して、ドドドドドツ………と体ぢゆうに響いた。
青春物語:02 青春物語 (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
酒に酔ってる時は、感情が亢進こうしんして世界が意味深く見えるけれども、実際には決してどんな表現もないのである。なぜならアルコールの麻酔が、観照の智慧を曇らしてしまうからだ。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
俗にいわゆる色気である。これが亢進こうしんして、心眼の玲瓏れいろうおおい、ために幾多の聖賢哲人をも、政治家立法者をも手古摺てこずらせ、その判断を誤らせて、大切なる人生をも解釈し得ざらしめたのである。
現代の婦人に告ぐ (新字新仮名) / 大隈重信(著)
わたくしは心配性の逸作に向って、わたくしが父の死を見て心悸しんき亢進こうしんさせ、実家の跡取りの弟の医学士から瀉血しゃけつされたことも、それから通夜の三日間静臥せいがしていたことも、逸作には話さなかった。
雛妓 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
そうして不必要で危険な我慢をし無理をする、すれば大抵の病気は悪くなる。そうしていよいよ寝込む頃にはもうだいぶ病気は亢進こうしんして危険に接近しているであろう。
変った話 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
もっとも大概の人間には真に対する潔癖はあるから、そういう不正確な記事はたまたまその潔癖を刺激してかえってそれを亢進こうしんさせるような効果がある場合があるかもそれはわからない。
一つの思考実験 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)