主翁あるじ)” の例文
明くるを待ちて主翁あるじに会し、就きて昨夜の奇怪を問われよ。主翁は黙して語らざるべし。再び聞かれよ、強いられよ、なお強いられよ。
化銀杏 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
私どももこれから下女を連れて参る筈、留守は主翁あるじが致しまする。あなた様も、是非にお出でなされませぬかと。澄が帰りしその跡へ、太田の妻の入来るに。
したゆく水 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
こはこれ、公園地内に六勝亭ろくしょうていと呼べる席貸せきがしにて、主翁あるじは富裕の隠居なれば、けっこう数寄すきを尽くして、営業のかたわらその老いを楽しむところなり。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
主翁あるじは太田彦平とて、程遠からぬ役所の勤め。腰弁当の境涯ながら。その実借家の四五軒ありて、夫婦が老を養ふに、事欠くべくはあらねども。実子なき身は、なまじひの、養子に苦労買はむより。
したゆく水 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
ところがね、ちょうどその晩兼六園の席貸しな、六勝亭、あれの主翁あるじ桐田きりたという金満家の隠居だ。この夫婦とも、何者の仕業しわざだか、いや、それは、実に残酷にられたというね。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)