一殿いちでん)” の例文
と、殿でん法印ほういんを追い立てた。そして宮は一たん奥へもどって妃のお給仕で食膳につき、また装いも腹巻にかえて、おもての陣座とする一殿いちでんへ出て行かれた。
そこで使者は、長いこと、一殿いちでんで待っていたが、ときもたつのに、どうしたのか出ても来ない。
とつぜんな宮御所の召集には、千種忠顕ただあき以下、たれもが驚いて馳せ参じた。そしてよく密議する一殿いちでんこおるばかりな灯に対して、それぞれの吐く白い息が固く居ながれていた。
そこは真空のような一殿いちでんの室だった。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)