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おいえりゅう
併し私の
手蹟じゃ
不味いから長州の
松岡勇記と云う男が
御家流で女の手に
紛らわしく書いて、ソレカラ玄関の
取次をする書生に
云含めて
彼が十歳のとき甘木の
祇園の縁日に買い来しものなり、雨に
湿みて色変りところどころ虫
蝕いたる中折半紙に、
御家流文字を書きたるは、
寅の年の吉書の手本、台所の
曲める窓より
剥ぎ来たれる
譬えば上等士族は習字にも
唐様を学び、下等士族は
御家流を書き、世上一般の気風にてこれを評すれば、字の
巧拙を問わずして御家流をば
俗様として
賤しみ