ひど)” の例文
足りなければ何回でもおわびします。しかしあんなことのために全然愛想づかしをして、前々からの手紙まで取り返すというのはひどい。
ふみたば (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
それはじぶんが捨てて来た唖の女ではないか。石川は急いで車に乗って一行のあとを追ったが、ひどい熱が出て芝居ができないようになった。
唖娘 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
わたしの口からお父さまの名を申し上げられるでしょうか? どんなにひどい目に遭わされたとて、たとえ八つ裂きにして殺されても
錯覚の拷問室 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
頬邊ほつぺたは、鹽梅あんばいかすつたばかりなんですけれども、ぴしり/\ひどいのがましたよ。またうまいんだ、貴女あなたいしげる手際てぎはが。
艶書 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「さうねえ、だけれどみんながあの人を目のかたきにして乱暴するので気の毒だつたわ。隣合つてゐたもんだから私までひどい目にあはされてよ」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
あんまひどすぎる」と一語ひとことわずかにもらし得たばかり。妻は涙の泉もかれたかだ自分の顔を見て血の気のないくちびるをわなわなとふるわしている。
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
かれこもつくこをかついでかへつてとき日向ひなたしもすこけてねばついてた。おしな勘次かんじ一寸ちよつとなくつたのでひどさびしかつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
もうこの時は夕暮れでジョン少年は疲労つかれてもいたしひどく腹も空いていたので、その家へ行って、宿も乞い食物も貰おうと決心した。
そのお高婆さんが、嫁入当時多くの女が経験するやうに(女としては何といふ有難い経験であらう)ひどしうとめいぢめられた事があつた。
ゆうべは少し彼にひどい目をあわせ過ぎたようでもあるが、それも彼の修行の足しになることと承知して武蔵はしていることであった。
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ひどく剛情を張るような事があれば、父母の顔色をむずかしくして睨む位が頂上で、如何いかなる場合にも手をくだしてうったことは一度もない。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
その上に運動不足とか、消化不良とかが、一緒に来る事もありますので、飛んでもない夢を見たり、ひどく憂鬱になったりする訳ですね。
一足お先に (新字新仮名) / 夢野久作(著)
井生森又作はひどい奴で、人を殺して居る騒ぎの中で血だらけの側にありました、三千円の預り証文をちょろりとふところへ入れると云う。
目まいがひどくなるとかえって肉体が酔うものであることを初めてかんじたのであった。かれは階段をいくつも下りながら考えていた。
幻影の都市 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
「まあにいさん、なにをするんです。そんなひどにあはせるなんて、われもひとも生きもんだ 、つてこともあるじやありませんか」
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
復た何時いつ来られるものやら解らないから、と言って、達雄はひど名残なごりを惜んだ。三吉が表座敷で書いた物をも声を出して通読してみた。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
内儀もひどく心を痛められる際と云い三時からは又裁判所の呼出しにも応ぜねば成らぬ事だからう少しは休息なさらねばく有る
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
したか知らないけれど、みんなして、ああしてひどい目に逢わせるんですもの、誰も、母ちゃんを助けてくれる人は一人もありません
大菩薩峠:19 小名路の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
アンドレイ、エヒミチはせつなる同情どうじやうことばと、其上そのうへなみだをさへほゝらしてゐる郵便局長いうびんきよくちやうかほとをて、ひど感動かんどうしてしづかくちひらいた。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
そういう事は全く無いというてある僧侶などは弁護しますけれども、それは嘘なんで実はやはり修学中は随分ひどい目に遇わされるです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
吉田は実に不思議だといったような顔をして、「先生、僕は今実にひどい目に会いましたよ」と云いながら語るのを聞くとこうだ。
怪物屋敷 (新字新仮名) / 柳川春葉(著)
お気の毒様なこつたが独活うど大木たいぼくは役にたたない、山椒さんしよは小粒で珍重されると高い事をいふに、この野郎めと脊をひどく打たれて
わかれ道 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
書終りさていかに酒は來りしや大膳太夫だいぜんのたいふ殿と云へば露伴子ヂレ込み先刻さつき聞合せると云たばかりに沙汰なしとはひどい奴だと烈しく手を
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
「や、ひどく降るな。」と、忠一は袖で顔を払った。それから更に庭を見渡したが、白い木立、白い竹藪、そのほかには何にも見えなかった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
私のことを考へると氣持が惡くなると云つた、私があさましい程ひどくお前に當ると云ひ張つたときのお前のあの小兒こどもらしくない眼付と聲を。
「あんな馬鹿ばかな子供が、遠い所へ行つてみんなに馬鹿にされてひどい目に逢ふことは無いでせうか。」おつ母さんがかう言つた時
蚊帳の釣手 (新字旧仮名) / 沖野岩三郎(著)
上島と云ふ奴ひどい男だ。以前は俺と毎晩飮んで歩いた癖に、此頃は馬鹿に竹山の宿へ行く。行つて俺の事を喋つたに違ひない。
病院の窓 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
いずれも無残な仕方だが、まだひどいのはアビシニア人が牛を生きながら食う法で、ブルースはかの国の屠者を暗殺者と呼んだ。
完成した著作を官に納め、父の墓前にその報告をするまではそれでもまだ気が張っていたが、それらが終わると急にひどい虚脱の状態が来た。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
隨分ひどい目に遇ひながら、先づ相摸と武藏のあら方、それから上野かうづけの一部を歩いて、慶應けいおう二年の暮おし詰めて江戸へ歸つた。
兵馬倥偬の人 (旧字旧仮名) / 塚原渋柿園塚原蓼洲(著)
ところが、都会の学校生活を終って来たばかりの房子には、それがひどく気に入らなかった。何かにつけてそれを云い出した。
田舎医師の子 (新字新仮名) / 相馬泰三(著)
それは、二人ともひどく似たぎ耳であって、その耳の形が明らかに彼らの身の薄命を予言しているかのごとく思われていた。
霜凍る宵 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
実際また、いま日本の谷川に棲息している二尺か二尺五寸くらいの山椒魚でも、くらいついたり何かするとひどいそうです。
黄村先生言行録 (新字新仮名) / 太宰治(著)
納めるものを納めないで自由な暮しをして居るかと思えばそうでもなく、甚助の家よりもっとひどいと云う話を聞いて居る。
農村 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
「いえ、あれで、から駄目なのでございます。少し体を使うと、その使ったところから痛み出して、そりゃひどいのですわ」
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
厭ねえ正さん、何もそんなにむきになる事はないじゃないの、——あたしも少し云い過ぎたけど、おまえだってひどいよ。
お美津簪 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
何でも彼嶺あれさえ越せばと思って、前の月のある朝ひど折檻せっかんされたあげくに、ただ一人思い切って上りかけたのであった。
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「泣いて困った。それに病気して……。君はひどいじゃないか。僕が悪いにしても、出たきり何の沙汰さたもしないなんて。」
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
其樣そんことだらうとはおもひました、じつひどにおあひになりましたな。』と、いましも射殺ゐたをしたる猛狒ゴリラ死骸しがいまなこそゝいで
「まア、何殿どなたかと思ひましたら、貴所あなたさまですか——姉さん、ひどいことねエ、知らして下ださらぬもんですから、飛んだ失礼致したぢや御座んせんか」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
それは昔彼女の父が不幸のなかでどんなにひどく彼女をいじめたか、母はよくその話をするのであるが、すると私はおさない母の姿を空想しながら涙を流し
闇の書 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
昼のあひだのひどい暑気に蒸された川の面の臭ひに夜更けの冷気がしんしんと入れ混つて、たとへば葦間いかんの腐臭をぐやうな不思議なにおいつたもや
水に沈むロメオとユリヤ (新字旧仮名) / 神西清(著)
「ほんとにあいつはひどい奴やぞ、わざわざ母屋へ頼って来てるのに、俺とこへ連れて来て、何ぼ何でもあんまりや!」
南北 (新字新仮名) / 横光利一(著)
「女学校でもなんてひどいわね。けれども箱根から彼方むこうは知らないんですから楽みですわ。早く沼津に着きたいものね」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
みんなが、あなたにあんなひどいことをしました。どうぞ許して下さい。わたしにはどうすることも出来ませんでした。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
『だッて、わたしさツきには斯麽こんなちひさかなかつたんですもの、なかつたんですもの!眞箇ほんと餘程よつぽどひどいわ、さうよ!』
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
見ると正面の窓硝子が上に開いて、しかも硝子がこわれている。さっきのひどい音はこれだったのだ。怪人物は千鳥を奪って、此処ここから逃げたのに違いない。
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
博士は立ち上ろうとしたが、先刻さっきの衝突でひどく身体を打ったと見えて、腰の関節が痛んで中々立てそうもない。
月世界跋渉記 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
もっと気のいた使いが来て、事情さえわかればこんなひどくならないうちに、来たものを! と再び後悔した。
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
すぐに病人びやうにんれてゆけつてひどことをぬかしやがる、此方こつちもついかつとして呶鳴どなつてちやつたんですが…………
彼女こゝに眠る (旧字旧仮名) / 若杉鳥子(著)