ほまれ)” の例文
旧字:
血によって印刷された綱の跡——このような一見つまらないものを見がさなかったのは、さすがに名検事のほまれ高き村松氏であった。
蠅男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「彼是人選にんせんの結果が、とうと御老人が指名せられる事になりました。何しろ一代のほまれといふものです。一つ奮つて御揮毫が願ひたい。」
『ほう、今の悲鳴は、吉良どのか。甲冑かっちゅうの血まみれは武士のほまれとこそ思ったが、素袍の血まみれは珍らしい。——いや古今の椿事ちんじ
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
僕は前にこの日本にほんほまれ」を変な物だと報じて置いたが、其れは忠臣蔵の飜案ほんあんだと思へばこそ僕等日本人にその支離滅裂な点が目障めざはりになる物の
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
縦令たとい記録に残って彼等勇敢なる武士つわものと肩を竝べるほまれがあろうとも、私は夜行には絶対に自信は皆無である。思っただけで身の毛がよだつ——。
ゼーロン (新字新仮名) / 牧野信一(著)
某が買い求め候香木、かしこくも至尊の御賞美をこうむり、御当家のほまれと相成り候事、存じ寄らざると存じ、落涙候事に候。
興津弥五右衛門の遺書 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
子路の仕事は孔家こうけのために宰としての地を治めることである。衛の孔家は、魯ならば季孫氏に当る名家で、当主孔叔圉はつとに名大夫のほまれが高い。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
まへにもいへるごとくちゞみは手間賃てまちんろんぜざるものゆゑ、がおりたるちゞみは初市に何程なにほどうりたり、よほど手があがりたりなどいはるゝをほまれとし
蕪村をして名を文学に揚げほまれを百代に残さんとの些の野心あらしめば、彼の事業はここに止まらざりしや必せり。彼は恐らくは一俳人に満足せざりしならん。
俳人蕪村 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
これは出藍しゅつらんほまれある者が出来たので、即ち教育家その人よりも立派な者が作られたことの寓説である。
教育の目的 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
頭脳あたまの中をこんな事にこしらへて、一軒ごとの格子に烟草たばこの無理どり鼻紙の無心、打ちつ打たれつこれを一ほまれと心得れば、堅気の家の相続息子地廻じまわりと改名して
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
ふと口をつぐんで見とれ、名花のほまれは国中にかぐわしく、見ぬ人も見ぬ恋に沈むという有様であった。
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
握る名と奪えるほまれとは、小賢こざかしきはちが甘くかもすと見せて、針をて去る蜜のごときものであろう。いわゆるたのしみは物にちゃくするより起るがゆえに、あらゆる苦しみを含む。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「これはまた大仰おおぎょうな。試合は真剣の争いにあらず、勝負は時の運なれば、勝ったりとて負けたりとて、はじでもほまれでもござるまい、まして一家の破滅などとは合点がてんなりがたき」
「私は御一緒に行きますよ。それからジムも行くことは私が請合います。ジムはきっとこの企てのほまれたる者になるでしょう。ただ、私には気にかかる人が一人だけいます。」
お雪は相馬氏の孤児みなしごで、父はかつて地方裁判所に、明決、快断のほまれある名士であったが、かつて死刑を宣告した罪囚のむすめを、心着かず入れてしょうとして、それがために暗殺された。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
技術は名人のほまれ高く、如何なる名手といへどもこの人を掏摸るあたはず、如何ほど要心を怠らなくともこの人にかかつては掏摸スラれてしまふといふ老練の巧者を据えるのが宜しからう。
総理大臣が貰つた手紙の話 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
「よくやっている。名校長のほまれが高い。君は知事になって来ても、とても切れないよ」
首切り問答 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
近い例証ためしが十年前の支那の戦争で、村から取られた兵隊が一人死にましたが、ヤア村のほまれになるなんて、鎮守のもりに大きな石碑建てて、役人など多勢来て、大金使つて、大騒ぎして
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
一四六さる由縁ゆゑ有りて人のさせしを、兄の見とがめてかくのたまふなり。父、何の一四七ほまれありてさる宝をば人のくれたるぞ。一四八更におぼつかなき事。只今所縁いはれかたり出でよとののしる。
大尉たいゐが高きほまれにはけおされてなど口々くち/″\いふ、百ぽんぐひより石原いしはら河岸かし、車の輪もまはらぬほど雑沓こみあひたり、大尉たいゐとも露伴氏ろはんし実兄じつけいなり、また此行中このかうちうわが社員しやゐんあれば、此勇このいさましき人の出を見ては
隅田の春 (新字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
「然り! 士道八則にも定むるところじゃ。斬るべしと知らばひるまずしてこれを斬り、斬るべからずと知らば忍んでこれを斬らず、即ち武道第一のほまれなりとな。これもやはり御意に召さぬかな」
歌道は飛鳥井家の門人であって出藍しゅつらんほまれ高かったから、歌集の書写等を下命になったこともしばしばで、単に勅命のみならず、宮家、武家等からも依頼があった。歌集でないものにも筆を染めた。
翁の歿後、師を喪った初心者で斎田氏の門下に馳せ参じた者も些少ではなかったが、斎田氏の八釜しさが出藍しゅつらんほまれがあったものと見えて、しまいには佐藤文次郎氏一人だけ居残るという惨況であった。
梅津只円翁伝 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
つとに知る可く、「のぞみ」こそそを預言かねごとし、「ほまれ」こそ
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
両奉行のほまれになったというお話でございます。
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
……恥もあらずほまれもあらず
ほまれよはやく黄泉よみの人
都喜姫 (新字旧仮名) / 蒲原有明(著)
文武ぶんぶほまれたぐいなく
県歌 信濃の国 (新字新仮名) / 浅井洌(著)
綾を織る罪やほまれや。
レモンの花の咲く丘へ (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
オデオン座で新しく演じて居るパウル・アンテルムの新作劇「日本にほんほまれ」はその芸術的価値はかく、目先がかはつて居るので大入おほいりを続けて居る。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
心もあのかおばせのようにいつくしく、われにあだし心おこさせたまわず、世のたのしみをば失いぬれど、幾百年の間いやしき血一滴ひとしずくまぜしことなき家のほまれはすくいぬ
文づかい (新字新仮名) / 森鴎外(著)
岡部一郎は、この輝かしい成功のほまれをしりぞけて、どこまでも謙遜けんそんしたのは、ゆかしきかぎりであった。
未来の地下戦車長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
かねて令徳のほまれ高いガーツルードどのが、一生わしの傍にいて、国の為、わしの力になってくれる事になりましたので、もはや王城の基礎も確固たり、デンマークも安泰と思います。
新ハムレット (新字新仮名) / 太宰治(著)
我が国のほまれとして我々は親も捨て、はなはだしきは妻子をころすまでして出陣しゅつじんした例などを物語ると、今日の西洋人の耳には野蛮やばんに聞こゆるそうだが、かくのごとき例は幾たび聞いても
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
他人の事と思はれず、我身わがみほまれ打忘うちわすれられてうれしくひとりゑみする心のうちには、此群集このぐんしふの人々にイヤ御苦労さまなど一々いち/\挨拶あいさつもしたかりし、これによりて推想おしおもふも大尉たいゐ一族いちぞく近親きんしん方々かた/″\はいかに
隅田の春 (新字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
 娘は幸福しあわせではないのですか。火も水も、火は虹となり、水は滝となって、彼の生命を飾ったのです。抜身ぬきみの槍の刑罰が馬の左右に、そのほまれを輝かすと同一おんなじに。——博士いかがですか、僧都。
海神別荘 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
世話になるということはほまれのことではあるまい、いわんや一匹の男、女の世話になって旅をし病を養うというのは、誉ではあるまい、それを甘んじているおれの身も、またおかしなものかな。
大菩薩峠:08 白根山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
陸奧むつの国蒲生氏郷がまふうぢさとの家に、岡左内といふ武士もののふあり。ろくおもく、ほまれたかく、丈夫ますらをの名を関の東にふるふ。此のいと偏固かたはなる事あり。富貴をねがふ心、常の武扁ぶへんにひとしからず。
『てまえに、お杯を下さるとか。身のほまれいただきまする』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ほまれ」はつばさ音高おとだか埋火うづみびの「過去かこあふぎぬれば
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
ほまれのあだ討ちさ! お気に召したか!」
綾を織る罪やほまれや。
レモンの花の咲く丘へ (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
想ふに英国で書かれた「ムスメ」この国で既に演じて居る「バツタアフライ」と並んで当分欧洲の俗衆に歓迎せられる日本劇はこの「日本のほまれ」であらう。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
心もあのかおばせのやうにいつくしく、われにあだし心おこさせ玉はず、世のたのしみをば失ひぬれど、幾百年いくももとせの間いやしき血一滴ひとしずくまぜしことなき家のほまれはすくひぬ。
文づかひ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
また男子の働きは外部に現るるをほまれとするも、女子の働きは内助ないじょにある。しかしてこの内助ないじょはただに一家のうちの意味にとどまらずして、心のうちの助けの意味とも解すべきであると思う。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
それには一週間ばかり以来このかた、郵便物が通ずると言うのを聞くさえ、かりはつだよりで、むかしの名将、また英雄が、涙に、ほまれに、かばねうずめ、名を残した、あの、山また山、また山の山路を、かさなる峠を
栃の実 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
人間並みの人の恥ずることがこの社会ではほまれなのであります。
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
唯、すゑのほまれむくいえむとせば
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
二代目津藤として出藍しゅつらんほまれをいかがわしい境に馳せた香以散人はこの子之助である。
細木香以 (新字新仮名) / 森鴎外(著)