ほま)” の例文
旧字:
今はただ与倉中佐の危篤きとくを告げるのみでよい。最高なほまれを伝えるおごそかな軍務のひとつとして行えばよい。——が、そうできるか否か。
日本名婦伝:谷干城夫人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その名一世に鳴り響いた人々も、武勇のほまれ天下に高い人々も、またの間の戦争で死んで、ふたたびよみがえって来た兵士もいた。
「そのような武将のかぶり物を折りまするは、わたくしの職のほまれでござりまする」と、千枝太郎は追従ついしょうでもないらしく言った。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
このようにして法然は智恵第一のほまれが一代に聞えた。実際当時日本に渡っていた聖教伝記しょうぎょうでんきの類を目に当てないものは一つもなかったといってよろしかろう。
法然行伝 (新字新仮名) / 中里介山(著)
いうまでもなく、祝儀しゅうぎ酒手さかて多寡たかではなかった。当時とうじ江戸女えどおんな人気にんき一人ひとり背負せおってるような、笠森かさもりおせんをせたうれしさは、駕籠屋仲間かごやなかまほまれでもあろう。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
下総しもうさ飯篠いいざさ長威斎に天真正伝神道流を学び、出藍しゅつらんほまれをほしいままにしたのは、まだ弱冠の頃であった。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
チベット人は満足して「誠にありがたい事だ。ともかく宝玉を飲んで死んだからあの人も定めて極楽に行かれるだろう」といってほまれのように思って居ります。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
中堂金内のほまれの矢の根、八重の家にはその名の如く春がかさなったという、この段、信ずる力の勝利を説く。
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
日本は旧国のほまれが高かったけれども、この葦原あしはらなかくにへの進出は、たった二千六百余年の昔である。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
えゝ此のたびほまれ高き時事新報社より、何か新作物を口演致すようとの御註文でございますから、かつて師匠の圓朝えんちょう喝采かっさいを博しました業平文治なりひらぶんじの後篇を申上げます。
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
空地へ悠々ゆうゆうと出て行った治部太夫は、刺してほまれになる対手ではないが、娘きいの嫁入り以来、婿むこの慎九郎と不和な宮内だけに、今こうして身の力量をも顧みずに
討たせてやらぬ敵討 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
「私の舞台姿が福岡で名高い奥様のお手にかかるとは一生のほまれで御座います。何とぞよろしく……」
押絵の奇蹟 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
いやしくもおまえさんが押しも押されもしない書画屋さんである以上、書画屋という商売にふさわしい見識を見せるのが、おまえさんのほまれにもなるし沽券こけんにもなる。
ドモ又の死 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
煙草たばこの煙が立ちこめていて、壁には黄ばんだ着色石版画が並び、いちばんほまれある場所に、帝王の彩色像が掲げられて、かしの葉飾りで縁取られていた。人々は踊っていた。
ほかの方々は高禄こうろくを賜わって、栄耀えようをしたのに、そちは殿様のお犬牽きではないか。そちが志は殊勝で、殿様のお許しが出たのは、この上もないほまれじゃ。もうそれでよい。
阿部一族 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
でも、五千両の御用金を奪い還さない限り、敵を討ってもほまれにはならず、父上鉄太郎様の汚名をそそがれません。お嬢さんが今日まで我慢していたのはみんなそのためでした
「嬉しき人の真心を兜にまくは騎士のほまれ。ありがたし」とかの袖を女より受取る。
薤露行 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
折角生前あれほど骨折って欧米に売り込んだ彼の家門のほまれも水の泡だ。
バットクラス (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
名手のほまれをとっておいでになる八の宮の御琴の音をこの機会にお聞きしたい望みをだれも持っていたのであるが、十三絃を合い間合い間にほかのものに合わせてだけおきになるにとどまった。
源氏物語:48 椎が本 (新字新仮名) / 紫式部(著)
彼の家には、昔その祖先の一人がカヤンガル島を討った時敵の大将を唯の一突きに仕留めたというほまれの投槍が蔵されている。彼の所有する珠貨ウドウドは、玳瑁たいまいが浜辺で一度に産みつける卵の数ほど多い。
南島譚:01 幸福 (新字新仮名) / 中島敦(著)
満がこの村よりでて文学士というエライ者になりたるさえ村中一統いっとうほまれなるに我身そのエライ人と縁組せんこそこの上もなき誉れぞと玉の輿に乗る心持「伯父さん、満さんはいつ帰るとも言って来ねいのう」
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
死ぬるを人のほまれとは
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
正季初め、単純な若人ばらの覇気はきにせよ、功名心だけでもないほまれと死の意味も、一面の気概となっていることは見のがされない。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「しかし、恐るるには及ばぬ。泰親はよい時に生まれあわせた。わしの力で悪魔を取り鎮めて、世の暗闇を救うことが出来れば、末代までも家のほまれじゃ」
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
あくる朝は未明に起きしば刈りなわない草鞋わらじを作り両親の手助けをして、あっぱれ孝子のほまれを得て、時頼公に召出され、めでたく家運隆昌に向ったという、これは後の話。
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
「いいえ、名誉です、十津川の一戦は勤王の火蓋ひぶたでした、あなたがその名誉ある一戦に加わって、犠牲の負傷を残されたということは、大きなるほまれでなくて何でしょう」
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
嫡男ちゃくなん新三郎水没し、次男弥蔵出藍しゅつらんほまれあり、江州佐和山石田三成に仕え、乱後身を避け高野山に登り、後吉野のそばに住す。清洲少将忠吉公、その名を聞いてこれを召す。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
秋田屋清左衞門の番頭も、其の頃大名の御家老などが来るといえほま名聞みょうもんだというので、庭の掃除などを厳しく言付けぐる/\見廻って居ります。そらおいでだと云ってお出迎いをいたし
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
第六十八 村のほま
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
で……五郎作が招かれたのは、四方庵の同伴として呼ばれたのでしょう。でも、よほどほまれと思っているらしく、ひどく欣んで居りました
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お身と恋すればひとねたみを受くる……それは我らも覚悟の前じゃ。諸人に妬まるるほどで無うては恋の仕甲斐がないともいうものじゃ。妬まるるは兼輔のほまれであろうよ。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ついてはほまれある浪人組のその一人に加えたくこの甚五衛門は思いおれど一同の存意もいかがかとここに評定を開いた次第。所存ある者は遠慮なくその思うところを申すがよい
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
萱門かやもん押破おしやぶつて散々さん/″\下草したくさをおあらしになりましたとこ御胆力ごたんりき、どうも誠に恐入おそれいりました事で、今日こんにち御入来ごじゆらいなんともうもじつ有難ありがたことで、おほきにほまれに相成あひなります、何卒どうぞすみやかに此方これへ/\。
にゆう (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
「のう正季。わしの首一つに、丹後一郡の賞がかけられたとは、ほまれであるぞ。おことの首には何も賭けられていないそうな」
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして人の恋している花を、横から手折たおって興がったり、戦の先陣に次ぐほまれみたいに、見よがしにした。常磐の場合でもそうだったのである。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いちどきに家中かちゅうの者がめかけてくる手はずとなっておるのだから、いわばわれわれはりの先陣せんじんねごうてもないほまれをつとめるわけなのだ
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「芸能の徒は、容姿をでられるのは、ほまれとしておりません。伎芸そのものをおめつかわしていただきたいもので」
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
赤間あかませきの岸を離れた彼の小舟は、時折、真っ白なしぶきをかぶった。佐助は、きょうのを、ほまれと思っていた。漕ぐ櫓にも、そうした気ぐみが見えた。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「——先駆さきがけてしゃ二無二、天王山にお味方の旗を立てた者こそ平野の一番首よりも、戦功第一のほまれたらん」
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お見いだしにあずかって、かかる大任を、仰せ付けられました事は、一門の冥加みょうがですし、一身のほまれ。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
人穴城ひとあなじょうへなげ松明たいまつをした手柄てがらも、きのうのほまれをあげたこともみんな、おいらの力よりはクロの手柄。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これは名誉めいよなお使番つかいばん、クロを飼いならしていらい、わしにのってお使つかいをするものは、とんぼぐみほまれとしてありますので、わたしはほんとにうれしゅうございました
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、むこのように持ってゆかれるので、柳生家は、ほまれであったが、困りもする。断ると
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
無論そうなれば、あのお方一代のほまれ、甲賀の家にもふたたび花が咲こうし、十年以上も暗闇の手探りをしていた天満組てんまぐみの俺たちも、さすがに目がいていたといわれるだろう——。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして夜は演武庁の楼上で、盛大な祝賀の宴にほまれをうたわれ、その席上ではまた
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もちろんこの日は、春日山の二十四将以下、家中ことごとく参列し、また身分のひくい足軽の遺家族といえ、ほまれある家々の老幼はすべて法筵に列して、親しく、謙信からことばをかけられた。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それを遂行すいこうするにも、白昼公然ではなく、いつも、夜陰、あるいは人目のない所で行われるので、世間は知らないが、家中では、そういう嫌疑者の多くを上げてくることが、すこぶるほまれであり
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「やめよう。烏合うごう雑人輩ぞうにんばらなど、いくら斬っても、ほまれにはならん」
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「まこと、古今に例もないことです、破格なお沙汰じゃ。ご当家としても、大きなほまれ、武家としては、冥加みょうがこの上もないお仕合わせではあるまいか。……兵衛ひょうえ(正成)。ありがたくおうけなされい」
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
『安中三郎進のため、戦の軍功帳のほまれは見事られたわけか』
篝火の女 (新字新仮名) / 吉川英治(著)