蘆間あしま)” の例文
三人は、やかましく行々子よしきりの鳴いている蘆間あしまをくぐって、砂洲に出た。そして、しばらく蜆を拾ったり、穴を掘ったりして遊んだ。
次郎物語:01 第一部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
くもくもきたり、やがてみづごとれぬ。白雲しらくも行衞ゆくへまがふ、蘆間あしまふねあり。あは蕎麥そば色紙畠しきしばたけ小田をだ棚田たなだ案山子かゝしとほ夕越ゆふごえて、よひくらきにふなばたしろし。
月令十二態 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
田の中の小道を行けば冬の溝川水少く草は大方に枯れ尽したる中にたでばかりのあこう残りたる、とある処に古池のはちす枯れてがんかも蘆間あしまがくれにさわぎたる
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
男どもこそ、驚いたふうだったが、かの女とて、やはり、びっくりしたらしく、うしろの蘆間あしまの土手をふりむいた。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
時に白鷺二三羽貯水池の蘆間あしまより空高く飛去れり。
荷風戦後日歴 第一 (旧字旧仮名) / 永井荷風(著)
汝が身ぶりは、蘆間あしまを分くる泉に似て
そして、通りすがった蘆間あしまの蔭に、一そうの船を見た。竹で編んだとまのうちから、薄い灯火ともしびの光が洩れ、その明りの中に、耳環みみわをした女の白い顔が見えた。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
果して夢ならば、海も同じ潮入りの蘆間あしまの水。水のどこからが夢であって、どこまでが事実であったか。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
引汐ひきしほ蘆間あしまにうごく秋の雲
自選 荷風百句 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
聞きすますと、潟の水の、みぎわ蘆間あしまをひたひたと音訪おとずれる気勢けはいもする。……風は死んだのに、遠くなり、近くなり、汽車がこだまするように、ゴーと響くのは海鳴うみなりである。
鷭狩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
蘆間あしまかりのように、黒い影法師は駈け別れ、やぶに沈み、樹蔭に隠れ、田のあぜに腹這いになった。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
田越たごえ蘆間あしまほしそら池田いけださと小雨こさめほたる、いづれも名所めいしよかぞへなん。さかな小鰺こあぢもつとし、野郎やらうくちよりをかしいが、南瓜かぼちやあぢ拔群ばつぐんなり近頃ちかごろ土地とち名物めいぶつ浪子饅頭なみこまんぢうふものあり。
松翠深く蒼浪遥けき逗子より (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
一艘の小舟さえないと。そんな筈があるものか。——これほどな大河、昼中は、何で往来するか。いくさのため、河止めというような、非常な時にせよ、そこらの蘆間あしまや、河原草のなかに、物見舟は隠してあるものだ。よく眼を
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
で、れ/\としてつやあるはぎは、蘆間あしまに眠る白鷺しらさぎのやうに霧を分けて白く長かつた。
光籃 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
蘆間あしま小舟おぶねともづなを解きて、老夫おじはわれをかかえて乗せたり。一緒ならではと、しばしむずかりたれど、めまいのすればとて乗りたまわず、さらばとのたまうはしにさおを立てぬ。船は出でつ。
竜潭譚 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
蘆間あしま小舟おぶねともづなを解きて、老夫おじはわれをかかへて乗せたり。一緒いつしよならではと、しばしむづかりたれど、めまひのすればとて乗りたまはず、さらばとのたまふはしにさおを立てぬ。船はでつ。
竜潭譚 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
……海鼠なまこが這うようにちょろちょろと、蘆間あしまをあとへ引きますぞいの。村中が心を合せて、泥浚どろさらいをせぬ事には、ここの浦は、いまのに干潟になって、やがて、ただ茫々ぼうぼうと蘆ばかりになるぞいの。
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
サ、サとおとこえて、うつゝに蘆間あしまさゝなみうごいてくやうである。
十和田の夏霧 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
としつて、ふたゝ双六すごろく温泉をんせんあそんだとき老爺ぢいなかつた。が、城址しろあとほりにはふねがあつて、さぎではない、老爺ぢい姿すがたが、木彫きぼりつてつのをて、かれ蘆間あしまつかえて、やがて天守てんしゆはいした。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
森をくぐって、青い姿見が蘆間あしまに映った時である。
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)