ねぎ)” の例文
風情ふぜいもない崖裾がけすその裏庭が、そこから見通され、石楠しゃくなげや松の盆栽を並べた植木だなが見え、茄子なす胡瓜きゅうりねぎのような野菜が作ってあった。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
小倉は肉やねぎなどをつつきながら、頭はもやいっ放しの伝馬てんまのことと、三上対船長との未解決のままの問題との方へばかり向いていた。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
下水の桶から発散する臭気や、ねぎや、山椒さんしょうや、芥子けしなどの支那人好みの野菜の香が街に充ち充ちた煙りと共に人の嗅覚を麻痺させる。
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「話は至極甘いのだ、いわばねぎに鴨という調子に出て来ているのだが、さて、それに乗るということになると、相当の決心が要るよ」
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
いや、なにまをうちに、ハヤこれはさゝゆきいてさふらふが、三時さんじすぎにてみせはしまひ、交番かうばんかどについてまがる。このながれひとつどねぎあらへり。
弥次行 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
庶民的でなくて、飽きの来るセット式ハイカラーさがみなぎっている。ねぎをぶら下げて出入りなどすることが出来にくいように出来ている。
さいは一六がねぎと薩摩芋の難波煮なんばに、五十が豆腐汁とうふじる、三八が蜆汁しじみじると云うようになって居て、今日は何か出ると云うことはきまって居る。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
鰯を買つた幸堂氏はねぎを買ひに主人を近所の八百屋に走らせた。茶気のある篁村氏は一銭がとこ葱をげて嬉しさうに帰つて来た。
さらに下のほうでは、ぱらったキャベツが、驢馬ろばの耳を打ち振り、上気のぼせたねぎが、互いに鉢合せをして、種でふくらんだ丸い実を砕く。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
西風の夜のこの獲物は、かもねぎを背負ってきたようなものだった。うっかり居睡いねむりでもしていようものなら、逃げられてしまうはずだった。
人間灰 (新字新仮名) / 海野十三(著)
李春華は一隅で、石油の古罐に炭火をおこして粥を煮て、ねぎの皮をむいている。傍で卓連俊がその手伝いをしながら、生葱を食べている。
色黄褐で香気はねぎ乾酪チーズまじえたごとし。だから屁にもちょっと似て居る。秋末、柳や白楊や樫の林下の地中また時として耕地にも産す。
このときの料理は、狸汁のようにねぎ蒟蒻こんにゃくを味噌汁のなかへ刻み込み、共に穴熊の肉を入れて炊いたのだが、海狸ビーバーの肉に似ていると思った。
香熊 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
別に美味おいしい鰹節の煎汁を拵えておいて薬味には大根卸だいこんおろしにきざねぎ焼海苔のんだものおろ山葵わさびなぞを牡蠣の上へせて今の煎汁をかけます。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
よく岸本が牧野のもとへ自炊の日本飯を呼ばれに行って、ねぎなぞを買いに出た野菜の店もその通りに見える。そこまで行くと画室も近かった。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「それはねぎを百本、玉葱を百個、大根を百本、薩摩芋さつまいもを百斤、それから豚と牛とを十匹、七面鳥とにわとりを十羽ずつ買って来い」
豚吉とヒョロ子 (新字新仮名) / 夢野久作三鳥山人(著)
猪や兎の肉でも悪くはないが、にらねぎ人参にんじんを刻みこんだたれで、味付けしながら気ながに焙った鹿の肉ほど、甲斐にとってうまい物はない。
しよりえてよみしに、○塔不剌たふふらとありてちゆうに○ねぎさんしよ○油○ひしほいりつけあとよりあひる或は雞○をいれ、慢火ぬるひにて養熟しあげるとあり。
そこは、空気がよどんで床下の穴倉から、湿気と、貯えられたねぎや馬鈴薯の匂いが板蓋いたぶた隙間すきまからすうっと伝い上って来た。
パルチザン・ウォルコフ (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
この思慕エロスは彼の俳句に一貫しているテーマであって、独得の人なつかしい俳味の中で、ねぎにおいのようにけ流れている。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
曽祖父の丹精たんせいした植木園は見る影もなく荒れていた。母屋の西側にあった二棟の倉は壊されて、跡にはねぎが作られていた。
中へ入ると広い前庭になっていて、一方には畑もあり、畑にはねぎの坊主と、大根の花がしどろもどろに咲き倒れています。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
私はふと空いっぱいの灰色はがねに大きな床屋のだんだら棒、あのオランダ伝来のねぎつぼみの形をした店飾りを見る。これも随分たよりないことだ。
秋田街道 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
やっとの事で薄暗いランプの下に、煮豆に、香物こうのものねぎと魚の骨を煮込んだおさいが並べられ、指の跡のついた飯櫃おはちが出る。
監獄署の裏 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
わりに正直な男で、ねぎを背負つて来たかもみたやうなはなし。こんな偶然事がまひこんで来ようとは、たつた今しがたまで予感もしなかつたことだ。
老残 (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
おつたも不快ふくわい容子ようすをしながら南瓜たうなすねぎとを脊負しよつてべつくちくでもなく、たゞ卯平うへい二言ふたこと三言みこといつてもうどうでもいといふ態度たいどつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
また別なときに「筋違すじかいねぎを切るなり都ぶり」という句を君はどう思うと聞かれたときも句の意味がわからなかった。
思い出草 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
斎藤にも柳樽やなぎだるに瓦器盛りの肴を添えて送ることもある。きじねぎを添えてやったこともある。がんをやったこともある。太刀一腰の進物のこともあった。
三味線さみせんいてゐた女であらう、二十歳はたちぐらゐの首筋に白粉おしろいの殘つたのが、皿に入れた鷄肉けいにくねぎ鋤燒鍋すきやきなべなぞを、長方形の脇取盆わきとりぼんに載せて持つて來た。
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
出額でこの役者の子だとあとできいたのだが、この子はねぎのような青白さで、あんぽんたんが覚えているのは、薄青い若草色の羽織と、薄かき色の着もので
ねぎにらにはないのが目につくというものだから、これを生活の単調を破るために、自然に生まれて来た行事の日の、名にするだけならば別に不思議はない。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
家鴨は皿の上に二羽ずつきちんと並び、きれいな新婚夫婦のようであり、ねぎのソースがたっぷりとかけてある。
まだ遠出とおでをする猫ではなし、何時いつ居なくなったろうと評議する。細君が暫らく考えて「朝は居ましたよ、ねぎとりに往く時私にいて畑なぞ歩いて居ました」
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
自分で畑のねぎなど抜いてきて汁をつくったりしていた。私達は居士は居士、村木さんは村木さん、そうして鳴尾君と私という風にめいめい勝手にやっていた。
西隣塾記 (新字新仮名) / 小山清(著)
最初に箱から現れたのは、登山袋を背にして片手に醤油らしいものの瓶やねぎの束などを携えているBだった。
吊籠と月光と (新字新仮名) / 牧野信一(著)
私は畑から担いで帰ったねぎやしゃくし菜などを谷川を洗いましたが、その冷たさ、それからは路を歩いても
青春の息の痕 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
実に完全に洗いこするので、ねぎは輝き、かぶは雪のように白い。この国の市場を見た人は、米国の市場へ持って来られる品物の状態を、忘れることが出来ない。
デパアトメントストオアには、あらゆる生活の断面が、ちょうど束になったねぎの切口のように眼にみた。
(新字新仮名) / 池谷信三郎(著)
大きな飯丼めしどんぶりねぎと小間切れの肉豆腐。濁った味噌汁。これだけが十銭玉一つの栄養食だ。労働者は天真に大口あけて飯を頬ばっている。涙ぐましい風景だった。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
青物屋のねぎは日に光つた。りんのやうに光つた。湯村は晒者さらしものになつたやうに思つて蒼白い額を両手におさへた。
茗荷畠 (新字旧仮名) / 真山青果(著)
その櫟林のさきはちょっと広い耕地になって、黄いろに染まった稲があったり大根やねぎの青い畑があった。
蟇の血 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
小屋の前の畑には蕪菁かぶら、大根、ねぎなどの野菜も能く生育するので、山中とも想われぬ馳走にありつける。
尾瀬雑談 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
牛蒡ごぼう畑、大根畑が一面に連なり渡っていたが、ふと、五、六間先にねぎの白い根を上げた畑が眼に入った。
ネギ一束 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
ねぎの白根の冴え揃った朝の雨。ミルク色に立ちこめた雨の中から、組み合った糸杉の群りすすんで来るような朝の雨だ。峠を越えて魚売りの娘の降りて来る赤襷あかだすき
悦子の好きなえびの巻揚げ、はとの卵のスープ、幸子の好きなあひるの皮を焼いたのを味噌みそねぎと一緒にもちの皮に包んで食べる料理、等々を盛ったすずの食器を囲みながら
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
晩の寒空に、みるねぎを刻んで、自分で水づかいしてこさえた膳を、露八は、睨みつけていた。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
斜に薄く切られた、ざくと云う名のねぎは、白い処が段々に黄いろくなって、褐色の汁の中へ沈む。
牛鍋 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
ひとり牛鍋のねぎをつついている男の顔は、笑ってはいけない、キリストそのままであったという。
狂言の神 (新字新仮名) / 太宰治(著)
ねぎと、大根との風呂敷包をもって、私が、弟を負うたり、その反対だったり——それから、それが、だんだん慣れてくると、私が一人で買出しに行ったり、弟を背負うて
死までを語る (新字新仮名) / 直木三十五(著)
N駅に出る狭い道を曲がった時、自動車の前を毎朝めしを食いに行っていた食堂のおかみさんが、片手にねぎの束を持って、子供をあやしながら横切って行くのを見付けた。
独房 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)