穿はい)” の例文
私は、藁靴わらぐつ穿はいて、合羽かっぱを着た。両脚りょうあしは急に太くなって、頭から三角帽子を被ったので、まるで転がるように身体がまるくなった。
北の冬 (新字新仮名) / 小川未明(著)
おつぎはひまぬすんでは一生懸命しやうけんめいはりつた。卯平うへいがのつそりとしてはしつのは毎朝まいあさこせ/\といそがしい勘次かんじ草鞋わらぢ穿はいようとするときである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
黒い、太い足に白足袋しろたび穿はいて、すその短い着物を着た小娘もある。一里や二里の道は何とも思わずにやって来る人達だ。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
成程なるほどれは馬のく車だと始めて発明するような訳け。いずれも日本人は大小をして穿物はきもの麻裏草履あさうらぞうり穿はいて居る。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
裾短すそみじかに靴を穿はいて、何を見得にしたか帽子をかぶらず、だぶだぶになった茶色の中折、至極大ものを膝の上。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
多くの僧俗に出迎はれて出て来た人は田鶴子姫たづこひめではなくて、金縁の目鏡めがねを掛けて法衣はふえの下に紫の緞子どんすはかま穿はいた三十二三のやせの高い僧であつた。御門主ごもんしゆ御門主ごもんしゆと云ふ声が其処此処そこここからおこつた。
御門主 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
あしには脚絆きやはん草鞋わらぢとを穿はいにはござうてる。ござえずかれ背後はいごにがさ/\とつてみゝさわがした。かれつひ土手どてかられてひがしへ/\とはしつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
頃は旧暦の三、四月、誠にい時候で、私はパッチを穿はいて羽織か何か着て蝙蝠かわほり傘をもって、駕籠にのって行くつもりであったが、少し歩いて見るとなか/\歩ける。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
道路に雪のある間は足も暖かであったが、そのうちに黄ばんだ泥をこねて行くような道に成って、冷く、足の指もしびれた。親切な飯山の宿で、爪掛つまかけを貰って、それを私は草鞋わらじの先に掛けて穿はいて来た。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
しろいシヤツのうへ浴衣ゆかたかたまでくつて、しりからげて草鞋わらぢ穿はい幾人いくにんれつからはなれたとおもつたら、其處そこらにつて見物けんぶつして女等をんならむかつて海嘯つなみごとおそうた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
食事の時にはとても座ってうなんとうことは出来た話でない。足も踏立ふみたてられぬ板敷いたじきだから、皆上草履うわぞうり穿はいたって喰う。一度は銘々にけてやったこともあるけれども、うは続かぬ。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)