けが)” の例文
陸中の山村では猟人の名を万治磐司ばんじばんじといい、磐司がひとり血のけがれをいとわず親切に世話をすると、十二人の子を生んだと伝えている。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
虚偽とけがれによって作り上げられた学術の犠牲に供すべく、刻一刻に私の背後から迫りつつある事がヒシヒシと全神経に感じられる。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
……わたくしはもう欲界の愛の心で、あなた様をおけがし申し度くありません。というて、このままお別れ致すのも心残りで御座います。
阿難と呪術師の娘 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
しかしそういう眼つきのために、表情はけがされてはいなかった。むしろそのために老売卜者の顔は、悲壮にも見え純真にも見えた。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
土地をけがすとか云われて、徹底的に嫌われ、とうとう又、小田原を追ン出て、牧場を横浜市外の太田新田という所へ引移したものである。
この男に巣食っていたけがれし霊が、イエス様の言を聞きてその権威に圧倒され、いたたまらずしてかくのごとく叫び出したのであります。
「あれ。あれですつてへえ! あれがこんな神聖なものをこんなけがれた肌に平気で着けてると貴方思ふの?」女は笑つて云つた。
御所では神事に関した御用の多い時期ですから、そうしたけがれに触れた者は御遠慮すべきであると思って謹慎をしているのです。
源氏物語:04 夕顔 (新字新仮名) / 紫式部(著)
まだ/\残り居ります訳で、御安心下すって何卒どうかあなた様の御盃おさかずきを頂戴致して、けがれたる臓腑を洗い清めましてすみやかに立退たちのきまする心底で
心は腐れ、器物はけがれぬ。「夕暮」なき競走、油と虫となる理想! ——言葉は既に無益なるのみ。われは世界の壊滅を願ふ!
地極の天使 (新字旧仮名) / 中原中也(著)
「恩恩って、大っきな声でぬかすな! 手前とこが有るばっかしで、俺とこまでけがしやがって、そんな恩施しなら、いつなと持っていけ!」
南北 (新字新仮名) / 横光利一(著)
その水中にて溺死できしするはめでたいように思い、ひとたびその水にて手足を洗えば六根清浄ろっこんしょうじょうとなり、身心のけがれが一時になくなると信じておる。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
『ラランいふのはおまへか。ヱヴェレストはそんなからすようはないぞ。おまへなんぞにられるとやまけがれだ。かへれ、かへれ。』
火を喰つた鴉 (新字旧仮名) / 逸見猶吉(著)
神の愛は平等である。しかるにこれを自己にのみ厚しとするは、これ神をいつわり、神をけがし、神をみすものに非ずして何ぞや。
永久平和の先決問題 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
自分の熱愛しているアンナの夫のカレニンの風貌ふうぼうを見てけがらわしい心持になったと同じような気がして、その瞬間たちまち
狂乱 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
素戔嗚すさのおはその湖の水を浴びて、全身のけがれを洗い落した。それから岸に臨んでいる、大きなもみの木の陰へ行って、久しぶりにすこやな眠に沈んだ。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
しかし私は幸いにもとっさにそんな言葉で自分をけがすことをのがれたのだった。それは私の心が美しかったからではない。
生まれいずる悩み (新字新仮名) / 有島武郎(著)
郎女は、貴族の姫で入らせられようが、寺の浄域をけがし、結界まで破られたからは、直にお還りになるようには計われぬ。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
なげ空敷むなしくなりたりけりあんずるに鬼女の如き面體めんていになりしをはぢて死にけるかたゞし亂心にや一人はすゑに名を上一人はすゑに名をけがせりと世に風聞さたせしとなん
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
両部神道が起って、神様が肉のけがれを忌み給うという思想が盛んになっては、彼らは一層きらわれるの運命に陥りました。
回向えこうしてやりたいと思うて持ち帰って、仏壇にそっと祀って置いたをととさまにいつか見付けられて、このようなけがれたものをうちへ置いてはならぬ。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
かしこにてかのけがれし民の手にかゝりて虚僞いつはりの世——多くの魂これを愛するがゆゑに穢る——より解かれ 一四五—一四七
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
聖母は彼つたないろどりたる、罪障深きものゝ手にけがされたる影像の、灰燼となりて滅せんことをこそ願ふなれといふ。その聲はベルナルドオが聲なり。
十六節は「罪を取ること水を飲むが如くする憎むべきけがれたる人」なる語を以て、人間その者の性質を説明している。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
「貴様、まだまごまごしておるかッ。神域をけがす不所存者めがッ。行けッ、行けッ。行けと申すに早く行かぬかッ」
不覚の名をけがし、今に落着相極あいきわまらず死せん事こそ口惜しけれ、依て残す一言あり、我れはてても仏事追善の営み無用たるべし、川合又五郎が首を手向たむけよ
鍵屋の辻 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
それからというものは、老嬢はこの猫をばけがれたもののように毛嫌いした。猫が寄って来ると足で蹴っとばして
老嬢と猫 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
「あたし美濃庄の娘なんかじゃない」とおしのは喘ぐように云った、「どこの娘でもない、あなたなんかの知らない、けがれた、卑しい、悪い女なんです」
雪と泥 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
そのように金銭ずくのけがれを少しも持たないそういう奉仕に、彼は極めて高い尊敬の念を持っていたので、彼は
お初の慾望は、平馬の、ただれ心に充ちた目つきにそそられたように、浅間しい、歪み、けがされたものになって来た。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
此奴こいつけがれた動物だ、同席は出来ないなんて、妙な渋い顔色して内実プリ/\怒ると云うような事は決してない。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
すなわち彼は、こういう方法で殺害されることによってのみ、この種のけがれた女は天国の門をくぐり得ると信じ、つまり済度さいどのために殺しまわったのだった。
女肉を料理する男 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
綾子は少しく乗出だし、「ほかに渡世の道が無いでもあるまい。ちっとじゃが資本もとでにして、そういうけがらわしい商売はめたがい。お前はどこの者だえ。」
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
がしかしその実泥水どろみずらなくとも泥水よりいっそう深きけがれに心の染まれるものが世には多くありはせぬか。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
しかるに王の末子ラトナファーのみ少しも騒がず、あり合せた飯を執って投げるを、拾うて鶏が少しもその膳をけがさず、因って末子が一番智慧ありと知れた。
寛永三年御清の節の食穢には狸、狼、羚羊を食つた人に、五日間のけがれありとしてあるが、今晩は鰊糟にしんかすにも劣る小片のみで、狸をたらふく食つたわけではない。
たぬき汁 (新字旧仮名) / 佐藤垢石(著)
そのうちほどなく身がけがれになったので、私は一度里へとも思ったが、すぐ思い返して、その間だけ寺から少し離れた或みすぼらしい山家に下りている事にした。
かげろうの日記 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
が、あなたの上に、すぐ考えて、それが如何いかにも、女性をけがす、許されない悪巫山戯わるふざけに、思えたのです。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
そして、私がこの樹立の中にまいりますのを、大変お嫌いになりまして、毎朝ぎょうをなさる御霊みたま所の中にも、私だけはけがれたものとして入れようとはなさいません。
白蟻 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
「それに玉垣まで血でけがしてよ、罰の当った畜生じゃないか、お稲荷様だって黙っちゃいなさるめえ」
投書家さへいつかの論文に、君には悪にけがれた手と、泥にまみれた足が必要だと云つてたぢやないか。
良友悪友 (新字旧仮名) / 久米正雄(著)
彼の心では、そんな話を聞いて貰う前に、何故なぜに自分の恋がけがれて行くかを語りたかったのである。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
何しろ、お曲輪くるわも近い。年一度の天下祭が不浄の血でけがれたとあっては、まことに以て恐れ多い。なかんずく、年番御役一統の恐悚きょうしょうぶりときたらなんと譬えようもない。
そして憤然とした意志で、あきらめまいとし、そのけがらわしい環境からのがれようとした。彼女は反抗者だった。ある種の不正な事柄を見ると、神経の発作を起こした。
なんぼうしても落ちぬほどに、黒々と沁込しみこんだ心のけがれ! (訳注 第三幕第四場逍遥の訳による)
見上げたばかりに、けがらわしい感じになってしまった。しかも教授が表情を少しも動かさず、動物園のおりの中のけものでも見る眼付きだったことが、五郎を一層傷つけた。
幻化 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
そのラマを自分の住んで居る所に置くというのはけがれるだろうというところから、特に仏堂を設けて仏を祭ると共に自分の最も尊敬すべきラマの接待所にしてあるのです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
ものをけがすという意味で、私たちのきよらかな心をよごし、迷わすものは、つまりこの外からくる色と声と香と味と触と法とであるから、「六きょう」をまた「六じん」ともいうのです。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
平和へいわみだ暴人ばうじんども、同胞どうばうもっ刃金はがねけが不埓奴ふらちやつ……きをらぬな?……やア/\、汝等おのれらよこしまなる嗔恚しんにほのほおの血管けっくわんよりながいづむらさきいづみもっさうとこゝろむる獸類けだものども
けがれてる/\、ツてあの時んながさう言つたのは、眞個ほんとうだつたのかい。』
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)