此様こんな)” の例文
旧字:此樣
花「そう、本当ほんとにすまないことね、お前さんに此様こんな苦労までかけてさ、堪忍して下さいよ、これも前世からの約束ごとかも知れないわ」
此様こんな女の人は、多勢の中ですもの、幾人もあったでしょうが、其あかさんをいて御居での方が、妙に私の心を動かしたのでした。
昇降場 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
彼女は復も私を抱き締めヒステリカルな声を上げて、のべつに此様こんな事を喋舌しゃべりながら、額と云わず頸と云わず接吻の雨を降らすのでした。
温室の恋 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
大きな声では申されませぬが私共わたくしどもの考えますには無益なものに手数てすうをかけて楽しんでいられるようなら此様こんな結構な事はないじゃ御座いませんか。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
此様こんな小さい者を其様そんないじめて育てて、若しか俊坊としぼうの様な事にでもなったら、如何どうおしだ? 可哀かわいそうじゃないか。」
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
奥にこそ此様こんな人気ひとけ無くはしてあれ、表の方には、相応の男たち、腕筋も有り才覚も有る者どもの居らぬ筈は無い。
雪たたき (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「だが、重右衛門ナア、貴様も此村で生れた人間ぢや無えか、それだアに、此様こんな皆々みんな爪弾つまはじきされて……悪い事べい為て居て、それで寝覚ねざめが好いだか」
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
朝ツぱらから此様こんな愚痴を申して済みませぬが、考へて見ますと、成程女と云ふものは悪魔かも知れませぬのねエ、山木様も奥様のおなくなりなされた当分は
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
その晩は葡萄酒に酔つて船へ帰つて寝た。翌てう春雨はるさめの様な小雨こさめが降つて居る。此様こんなに温かいのは異例だとこの地に七八年案内者ガイドをして居る杉山と云ふ日本人が話して居た。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
彼の郷里熊本などは、昼間ひるまは百度近い暑さで、夜も油汗あぶらあせが流れてやまぬ程蒸暑むしあつい夜が少くない。蒲団ふとんなンか滅多に敷かず、ござ一枚で、真裸に寝たものだ。此様こんなでも困る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
朝は早く飛び出して、工場へ行き石炭の火の赤く燃え上ったのであたたまる——だから、此家ここに限って火の気というものが一年たったってありやしない。とても此様こんな家には長くいられない。
老婆 (新字新仮名) / 小川未明(著)
何有なあに、僕は些と此様こんなな箇所がしやうかなつてゐるんでね。」
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
「貴下いつかの晩も此様こんなでしたね。」
恋を恋する人 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
が、此様こんな事が果して出来るか。
現代の婦人に告ぐ (新字新仮名) / 大隈重信(著)
新「ヘエ道理でよく似ていらっしゃると思いました、イエ何、あのよく似たこともあるもので、江戸にも此様こんな事が有りましたから」
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
米国アメリカまで来て、此様こんな御馳走になれやうとは、実に意外ですな。』と髯をひねつていかめしく礼を云ふもあれば
一月一日 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
おもうに、私等親子のいつくしみを受けて、曾て痛い目にった事なく、暢気のんきに安泰に育ったから、それで此様こんなに無邪気であったのだろうが、ああ、想出しても無念でならぬ。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
うぞ僕に言はせて下ださい、——一体僕の家は何で食つて居るんです、何で此様こんな贅沢ぜいたくが出来るんです、地代と利子と、賭博ばくちと泥棒とぢやありませんか——や、姉さん
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
嗚呼何様して此様こんな仁慈なさけ深かろと有難くて有難くて私は泣きました、鐵に謝罪る訳は無いが親方の一言に堪忍がまんして私も謝罪に行きましたが、それからおつなもので何時となく鐵とは仲好になり
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
何時いつありつけるか知れたものじゃねえ。とると生命いのちの問題だ! へ、人間て云う奴ァ屹度きっと恐らく此様こんな時に盗賊ぬすっと根性を起こすんだろうぜ。何しろ生命の問題だからな。死ぬか生きるかの問題だ。
人間製造 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
此様こんな風ななぎさも長く見て居るうちにはもう珍らしく無くなつて東海道の興津へんを通る様な心持になつて居た。六時に着くはずのイルクウツクで一時間停車して乗替を済ませたのは十一時過ぎであつた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
阿父おとうさん、ほら此様こんなに摘んでよ」
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
若「もけません、ようよう此処まで我慢して歩いて来ましたので、わたくし此様こんなに歩いた事はないものですから、う何うしてもけません」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
何でもやたらに其処に居る人達に辞儀をしたようだったが、其中そのうち如何どういう訳だったか、伯父のそばへ行く事になって、そばへ行くと、伯父が「阿父おとっさんも到頭此様こんなになられた」
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
三州味噌の香気にほひがどうだ、塩加減がどうだ、此の沢庵漬たくあん切形きりかたは見られぬ、此の塩からを此様こんな皿に入れる頓馬はない、此間このあひだ買つた清水焼はどうした、又こわしたのぢやないか
一月一日 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
私の為めに余儀なく此様こんな結婚をして一生不幸を見たなんて、残酷ひどいことさへ言ふんですよ、——言はれて見れば私にも弱点があるから、言ひたいこともジツとこらへて居ますけれども
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
死にましょう死にましょう死にましょうよ……私殺されるかも知れないのよ! 殺したければ殺すがいいわ! 殺されたって別れはしない! 殺される事が恐ろしくて何うして此様こんな恋が出来るものか! ……貴郎
温室の恋 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
清「えゝ、お内室かみさんあんたはまアどうして此様こんなにお成りなさいました、十四年あとお宅で御厄介になりやした家根屋の清次でございやす」
若「あれさ、此様こんなことになってゝ済むのすまぬということがあるものかねえ、私がこんななりだからお前さん外聞がわるいんで」
母「おゝ、清次か、おゝ/\まアどうもまア、思いがけない懐かしい事だなア、此様こんな零落おちぶれやしたよ、恥かしくってあわす顔はございやせんよ」
新「はい水街道の方から参ったので、有難うございます、実に驚きました、ひどい雨で、此様こんなに降ろうとは思いませんでした、実に雨は一番困りますな」
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
徳「えい大きに小降に成ったが、何うも降りやすね何うも………旦那去年の九月四日の晩も此様こんなに降りましたな」
松と藤芸妓の替紋 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
茂「此の間中独身者ひとりもので居るから、棚から物を卸そうとすると、砂鉢すなばちおっこって此様こんなに疵が付いたのさ」
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
清水助右衞門のせがれだから驚きましたのは、七年あと自分のおとっさんが此の人のおとっさんを殺し、三千円の金を取り、それから取付いて此様こんなに立派な身代になりましたが
何が困るたって、あなた此様こんなに貧乏になりきりまして、実に世間体も恥かしい事で、斯様な裏長屋へ入って、あなたは平気でいらっしゃるけれども、明日あす食べますお米を
梅若七兵衛 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
柳「親方何だね、お前さんの心掛がいというので、旦那が此様こんなに可愛がって、お前さんの為になるように心配してくださるのだから、話したって宜いじゃアないかね」
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
今夜は弁天様から女福にょふくを授けられているそうだ、今の騒ぎで無銭たゞ遊びをした上、茫然ぼんやりけえろうとすると此様こんな上首尾、と喜びまして種々いろ/\お若さんに取入ろうとするが受付けません。
多「まア此処こけえかけなよ、子供も掛けな、叔母さん貴方あんたはまア何うして此様こんな零落おちぶれたよ」
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ことにゃア女の事だから、此の兄の死水しにみず手前てまえが取るのが当前あたりまえだのに、何の因果で此様こんな悪婦あくとうが出来たろう、お父様やじさまも正直なお方、私も是までさのみ悪い事をした覚えはないのに
婆「有難う…おや/\まアれだけおくんなさいますか、まア此様こんな沢山えら結構なお菓子を」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
此様こんなにお早くらつしやるてえのはぽどすきでなければ出来できない事でエヘヽヽ先達せんだつて番附ばんづけの時にあがりましたが、うも彼所あすこかららしつたかと思ふとじつびつくりするくらゐなもので
世辞屋 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
此様こんなに貰っちゃア気の毒だが、おめえさんも出世イして、んな身分になってわしも嬉しいからお辞儀イせずに戴きやす……私イえきもねいこんだ、お前さんのことを何でひとに話すもんかね
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
恒「それだッて此様こんなに毀してしまっちゃア、明日あした鹿島かじまさんへ納める事が出来ねえ」
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
わたくしはお梅も知って居ますが、奉公人の十四五人も使った身の上で、此奴こいつは今は婆アですが若いうちに了簡違いをして、此奴が来たからと云う訳でも有りませんが此様こんな零落れいらくして、斯う云う処へ引込ひっこ
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
此様こんなに人をだますようなことをなさろうとは思わなかったが、後月あとげつ来たら碁を打て/\と先生が勧めるから、お相手の積りで碁を打って、初めは私に飴を食わせ、勝たして置いて賭碁をしろと仰しゃり
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)