根方ねがた)” の例文
私たちは水際みずぎわを廻って崖の方へ通ずる小径こみち攀登よじのぼって行くと、大木の根方ねがたじじいが一人腰をかけて釣道具に駄菓子やパンなどを売っている。
お勢は大榎おおえのき根方ねがたの所で立止まり、していた蝙蝠傘こうもりがさをつぼめてズイと一通り四辺あたり見亘みわたし、嫣然えんぜん一笑しながら昇の顔をのぞき込んで、唐突に
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
地名表ちめいひやうには根方ねがた目方めがたとしてあるために、さがしてて、根方ねがたぎながら、それとはらなかつたのだ。
と手水鉢の柄杓を口にくわえて、土手の甚藏が蔦蔓つたかつらに掴まって段々下りて行くと、ちょうど松柏の根方ねがたっている処に足掛りをこしらえて、段々と谷間たにあいへ下りまして
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
そしてまっすぐに屏風岩の下まで乗りつけると、もえている松を岩の根方ねがたへ力まかせに投げつけた。
梟谷物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
その根方ねがたところを、草鞋わらぢがけの植木屋うゑきや丁寧ていねいこもくるんでゐた。段々だん/\つゆつてしもになる時節じせつなので、餘裕よゆうのあるものは、もう今時分いまじぶんから手廻てまはしをするのだといた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
根方ねがたところの土がくずれて大鰻おおうなぎねたような根が幾筋ともなくあらわれた、その根から一筋の水がさっと落ちて、地の上へ流れるのが、取って進もうとする道の真中に流出ながれだしてあたりは一面。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
わたしはそなたの根方ねがたに葬られて
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
岩——の士族屋敷ではこの「ひげ」の生まれない前のもっと前からすでに気味の悪いところになっているので幾百年かたって今はその根方ねがた周囲まわり五抱いつかかえもある一本の杉が並木善兵衛の屋敷のすみッ立ッていてそこがさびしい四辻よつつじになっている。
河霧 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
大きくはなるけれど、まだ一向に孩児ねんねえで、垣の根方ねがたに大きな穴を掘って見たり、下駄を片足門外もんそとくわえ出したり、其様そんな悪戯いたずらばかりして喜んでいる。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
昨日きのふ縫子ぬひこしてつたら、何所どこかへなくなして仕舞つたんで、さがしにたんださうである。両手であたまを抑へる様にして、くしを束髪の根方ねがたへ押し付けて、上眼うはめで代助を見ながら
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
秋のことだから尾花おばなはぎ女郎花おみなえしのような草花が咲き、露が一杯に下りて居ります。秋の景色は誠に淋しいもので、裏手は碓氷の根方ねがたでございますから小山こやま続きになって居ります。
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
私たちは旧造兵廠の建物の一部をば眼下に低く見下みおろ崖地がけちの一角に、昼なお暗く天を蔽うた老樹の根方ねがたと、また深く雑草にうずめられた崖の中腹に一ツ二ツ落ちころげている石を見つけたばかりである。
馬籠まごめ貝塚かひづか根方ねがた貝塚かひづかとは、池上街道いけがみかいだうはさんで兩方りやうはうる。しかし、 概たいがい我々われ/\はそれを馬籠まごめもとに一くわつしてる。べつ理由りゆういが、最初さいしよ根方ねがた貝塚かひづかをも、馬籠まごめだとしんじてたからで。
ある夜一番目の姉が、夜中よなか小用こように起きたあと、手を洗うために、潜戸くぐりどを開けると、狭い中庭のすみに、壁をしつけるようないきおいで立っている梅の古木の根方ねがたが、かっと明るく見えた。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
美作国みまさかのくに粂郡くめごおりに皿山という山があります。美作や粂の皿山皿ほどのまなこで見ても見のこした山、という狂歌がある。その皿山の根方ねがたに皿塚ともいい小皿山ともいう、こんもり高い処がある。
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
けれども立ったなりじっと彼の様子を見守らずにはいられなかった。彼は立木たちき根方ねがたえつけた石の手水鉢ちょうずばちの中に首を突き込んで、そこにたまっている雨水あまみずをぴちゃぴちゃ飲んでいた。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
一刀ひとかたなあびせたから惣次郎は残念と心得て、脇差の鞘ごと投げ付けました、一角がツと身をかわすと肩の処をすれて、すゝき根方ねがたへずぽんと刀が突立つったったから、一角はのりを拭いて鞘に収め
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
まだそのあとがあるかも知れないと思ったせいか、何気なく後姿うしろかげを見送っていると、大きな黒松の根方ねがたのところへ行って、立小便たちしょうべんをし始めたから、急に顔をそむけて、どてらの方を向いた。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
何時いつまで経っても先生が帰って来る様子がございませんから、二人の門人は気遣いながら、名主同道にて引返してまいりますると、こは如何いかに、先生が根方ねがたに倒れて居ります。びっくり驚いて
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
糸子の目には正面の赤松と根方ねがたにあしらった熊笹くまざさが見えるのみである。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
紅茶々碗を持つた儘、書斎へ引き取つて、椅子へこしを懸けて、茫然ぼんやりにはながめてゐると、こぶだらけの柘榴ざくろ枯枝かれえだと、灰色はいいろみき根方ねがたに、暗緑あんりよく暗紅あんかうはした様なわかい芽が、一面に吹きしてゐる。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)