)” の例文
旧字:
いうまでもなく、上野介の夫人は、上杉家の当主綱憲つなのりの母にあたる——吉良家と上杉、これは、っても断れない関係のものである。
無宿人国記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
目で見る現在の景色とれな過去の印象のジグザグが、すーっとレンズが過去に向って縮むにつれ、由子の心の中で統一した。
毛の指環 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
罵声ばせいが子路に向って飛び、無数の石や棒が子路の身体からだに当った。敵のほこ尖端さきほおかすめた。えい(冠のひも)がれて、冠が落ちかかる。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
と云ったかと思うと電話はれてしまった。主人は病気の模様を聞きたいと思ったが、電話がれたので残念でたまらなかった。
長崎の電話 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
生花の日は花や実をつけた灌木かんぼくの枝で家の中がしげった。縫台の上の竹筒に挿した枝にむかい、それをり落す木鋏きばさみの鳴る音が一日していた。
洋灯 (新字新仮名) / 横光利一(著)
夕方からち出した雪が暖地にはめずらしくしんしんと降って、もう宵の口では無い今もまだぎわにはなりながらはらはらと降っている。
雪たたき (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
そこで出発しようとしているとれていた雲がまた合って、また大雨になった。王成は仕方なしにまた一晩泊って翌日出発した。
王成 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
要求された量の小麦粒で、海と陸とをよせた大地球全体を、指の深さにちつともれ間のないやうに覆ふてしまふ事が出来る程なのです。
立ちるように吉良兵曹長はさけんだ。獣のさけぶような声であった。硝子玉ガラスだまのように気味悪く光る瞳を、真正面に私にえた。
桜島 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
東洋人独特のしとやかさはあり、それに髪はってはいなかったが、シイカの面影にはどこかそのクララに似たところがあった。
(新字新仮名) / 池谷信三郎(著)
今まで何ともなかった蜘蛛の糸が、急に犍陀多のぶら下っている所から、ぷつりと音を立ててれました。ですから犍陀多もたまりません。
蜘蛛の糸 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
だが、筋々がれるほどの痛みを感じた。骨の筋々が、挫けるやうな疼きを覚えた。——さうして尚、ぢつとぢつとして居る。射干玉ぬばたまの闇。
死者の書:――初稿版―― (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
と、地面じべたのたくつた太い木根につまづいて、其機会はずみにまだ新しい下駄の鼻緒が、フツリとれた。チヨツと舌鼓したうちして蹲踞しやがんだが、幻想まぼろしあともなし。
赤痢 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
やはり思いることの出来ない様子や、そのまた叔父に、父親が次ぎ次ぎに金を出し出ししてもらってる事情が、お庄にも見え透いていた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
母の、恐ろしい呻り声が美奈子の魂ををのゝかしたが、母の呻き声を聴いた途端に、悪夢はれた。が、不思議に呻き声のみは、尚続いてゐた。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
これっきり女を綺麗きれいさっぱりと思いってしまおうか、そうすると、この心の悩ましさを解脱することが出来て、どんなに胸が透くであろう。
狂乱 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
黙然もくねんと聞く武男はれよとばかり下くちびるをかみつ。たちまち勃然ぼつねんと立ち上がって、病妻にもたらし帰りし貯林檎かこいりんごかごをみじんに踏み砕き
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
丁度筋肉と骨の間に、煮滾つた熱湯を流し込まれるやうな感じで、ひどい時には痛む腕を根本ねもとからつてしまつたらどんなによからうと思ふ。
烙印をおされて (新字旧仮名) / 北条民雄(著)
たいらな沙地が、地平線の遠くにまで接している。南の方と思われた。雲のすそが明るくれて、上は濃い墨を流したように厚みのある黒い線をひいている。
薔薇と巫女 (新字新仮名) / 小川未明(著)
急所をられてそのままことれた由蔵の屍骸しがいを見捨てて、樫田武平は怖ろしい迄緊張した気持で変装に取かかった。
電気風呂の怪死事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「それにおもいを懸けるは宜く無い宜く無いと思いながら、因果とまた思いる事が出来ない。この頃じゃ夢にまで見る」
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
ごらんそら、氷河ね、氷河が海にはいるねえ、あれで少しずつされてだんだんみ出してるんだよ、そしてとうとう氷河かられて氷山にならあね。
風野又三郎 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
……ツイ今しがた仕繰夫しくり(坑内の大工)の源次を載せて、眼の前の斜坑口しゃこうぐちを上って行った六時の交代前の炭車トロッコ索条ロープでもれて逆行ひっかえして来はせんか……。
斜坑 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
昨日の午後起重機のチェーンがれて二人の人足が鉄板の下にまるつぶれになつて死んだ其の跡を見ながら行つた。
煤煙の匂ひ (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
小虎の鋭い叫びと殆ど同時に、巌畳がんじょうってある藤蔓縄が、ぷつりとれた。小虎は水音凄まじく新利根の堀割に落ちた。竜次郎の驚きは絶頂に達した。
死剣と生縄 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
外道の口の間から、女の髪がこぼれて落ちる。やあ、胸へ、乳へ、きばが喰入る。ええ、油断した。……骨も筋もれような。ああ、手をもだえる、もすそあおる。
海神別荘 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ふたりは前檣ぜんしょうの下へきて、その破損はそん個所かしょをあらためてみると、帆は上方のなわがれているが、下のほうだけがさいわいに、帆桁ほげたにむすびついてあった。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
その尾におびただしく節あり、驚く時非常な力で尾肉を固く縮める故ちょっとさわれば二、三片にれながらおどり廻る。
それで、百合子は電話をつた。——と彼女は、次の部屋でまごまごしてゐる滝本の傍らを、パジヤマの袖で顔を覆ふようにして、眼も呉れずに駆け抜けた。
南風譜 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
このひとは、どっか大きなとこの娘で、病気——ばかのようなので、髪をらして遊ばせてあるのだろう、だから、あんなに無作法ぶさほうなのだと——そう思えたほど
お父さんはちょっと歎息するように私の顔を見て言葉をった。私はお嬢さんの方を眼で指しながら訊いた。
妖影 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
三「なんたる因果でお累は彼様な悪党の不人情な奴を思いれないというのは何かのごうだ、よ、覗いて見なよ」
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
じぶんの体を支へた、天の糸の一本がれて、傾いた柱時計の振子のやうに、体重は、歪んでゐるらしい。
独楽 (新字旧仮名) / 高祖保(著)
筆にも口にも説き尽すべからざる理想の妙趣は、輪扁りんぺんの木をるがごとくついに他に教うべからずといえども、一棒の下に頓悟とんごせしむるの工夫なきにしもあらず。
俳人蕪村 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
漢文で習った「売柑者之言」の中に書いてあった「鼻をつ」という言葉がれぎれに浮かんで来る。
檸檬 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
絶えなば絶えね、れば断れよ、今はつれなき人の果てを見るべき命にもあらねば、我が身の果てをその人に見するをせめての慰めにと、慰めがたき日を過ごししに。
葛のうら葉 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
第一、電線がこのあたりでめちや/\に空間をつてゐるので、こんなきれいな空のときはよけいにいやであつた。店も、このへんは下品である。なんとなく下品である。
四人 (新字旧仮名) / 芥川多加志(著)
と思うと眼がかすんで何にも見えなくなって、今までにお鶴がささやいたれの言葉や
山の手の子 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
何故か髪をりて男の姿を学び、白金巾しろかなきん兵児帯へこおび太く巻きつけて、一見いっけん田舎の百姓息子の如く扮装いでたちたるが、重井を頼りて上京し、是非とも景山かげやまの弟子にならんとの願いなれば
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
そのうちにれの雲間から、薄日がさし出した。三人は、神奈川の茶店で、朝食を食べて、着物を乾すことにした。鰊、蒟蒻こんにゃく、味噌汁、焼豆腐で、一人前十八文ずつであった。
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
鋭い、れな百舌鳥もずの声が背戸口でかしましい。しみじみと秋の気がする。ああ可憐なる君よ、(可憐という字を許せ)淋しき思索の路を二人肩を並べて勇ましく辿たどろうではないか。
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
遥か野末から弦のれたような物音が何ごとかを暗示し、そのまま何の解決もなしに永遠の流れにけて入る——といったことを、彼は何も戯曲の中だけでやったのではないのである。
チェーホフの短篇に就いて (新字新仮名) / 神西清(著)
蘆葦茅草ろいぼうそうが枯れ枯れにくさむらをなしているところ、それが全くれて石ころのうずたかいところ、その間を、茸狩きのこがりか、潮干狩でもするような気分で、うかうかと屈伸しながら歩んで行くと、当然
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「まだそのときのわたくしは、きしゃな細火を背骨にし、べよべよしなるほどの溶岩を一重の肋骨として周りに持ち、島山の中央のれ目から島地の上へ平たく膨れ上っただけの山でした」
富士 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
そして思想のれ目毎に見える彼はもとのように静かで動かない。彼女はそのうちに異常な侮辱を感じて来た。そして硬張こわばった神経の疲労のために泥のように寝入ってしまったのである。
地上:地に潜むもの (新字新仮名) / 島田清次郎(著)
孟子は、母が夜もろくろく寝ずに織った、この尊い織物が、まだ完成をみないうちにられたことを、こよなく悔いた。母にすまない気持ちが、年少の孟子の心を激しくゆすぶったのである。
孟母断機 (新字新仮名) / 上村松園(著)
湯村はこの日、朝ツからかんが立つて、妹ばかり叱つて居た。塩鰺しほあぢの塩加減、座敷の掃除、銅壺どうこに湯をらしたの、一々癪に触る。襦袢の洗濯を忘れて居たのでは、妹が泣出すほど叱り付けてやつた。
茗荷畠 (新字旧仮名) / 真山青果(著)
それもぽつんとれていて前後のつながりがまるでわからなかった。
柳橋物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
断腸草を食えば、はらわたがれて死ぬということになっている。
広漠たる戦雲の所々のれ目からその姿が見られた。甲冑かっちゅうと叫喚と剣との交錯、大砲とラッパの響きのうちに馬背のすさまじい跳躍、整然たる恐るべき騒擾そうじょう、その上に多頭蛇のうろこのごとき彼等の胸甲。