微笑えみ)” の例文
声を和らげ、微笑えみをつくつた其様子を見て、マアなんといふ深切な人だかとうれしく、早速敷居をまたました。主人はいよ/\笑顔になり
黄金機会 (新字旧仮名) / 若松賤子(著)
古い港の町、燈台の見える海、奇異きたいな女の風俗などのついた絵葉書が、そこへ取出された。三吉は思いついたように、微笑えみを浮べながら
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
倅が兵隊服を着て、あのまん丸な若々しい顔に人懐っこい微笑えみをうかべながらっている姿が、今もまざまざと見えるようだ。
情状酌量 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
ゆえに戦い敗れて彼の同僚が絶望に圧せられてその故国に帰りきたりしときに、ダルガス一人はそのおも微笑えみたたえそのこうべに希望の春をいただきました。
門衛の持余もてあますを見て、微笑えみを含みたるお丹乞食、杖をもって門の柱を、とん。「同宿、構わずに、しけ込めしけ込め。」
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そして、その木が鉞の幾落下いくらっかによって、力尽き、地を揺がせて倒れるとき、俊寛の焼けた顔には、会心の微笑えみが浮ぶ。
俊寛 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
うしたかぜきまわしか、そのたいへん御機嫌ごきげんがよいらしく、老顔ろうがん微笑えみたたえてわれるのでした。——
ところへ細君は小形の出雲焼いずもやき燗徳利かんどくりを持って来た。主人にむかって坐って、一つしゃくをしながら微笑えみうかべて
太郎坊 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
それからずっと西の方は、斗満上流の奥深く針葉樹しんようじゅを語る印度藍色インジゴーいろの山又山重なり重なって、秋の朝日に菫色すみれいろ微笑えみを浮べて居る。余等はやゝ久しく恍惚こうこつとして眺め入った。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
「まあいや!」美しきまゆはひそめど、裏切る微笑えみ薔薇ばらつぼめるごとき唇に流れぬ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
「そんなことは!」と細川は慰さめる積りで微笑えみを含んだ。しかし老人は真面目で
富岡先生 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
長火鉢の向うに坐っていた主婦はものものしい顔にわざとらしい微笑えみを浮べて
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
細長い風呂敷包みに眼をやりながら、米問屋の主人は、微笑えみを含んで言った。
栗の花の咲くころ (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
眼も口も、人の倍ほどもある大柄な丹波の顔に、すごい微笑えみがみなぎって
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
ひじまくらに横に倒れて、天井に円く映る洋燈ランプ火燈ほかげを目守めながら、莞爾にっこ片頬かたほ微笑えみを含んだが、あいた口が結ばって前歯が姿を隠すに連れ、何処いずくからともなくまたうれいの色が顔にあらわれて参ッた。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
かえって嬉しく、よろこばしく感じ乍ら、会心の微笑えみもらすのでした。
艶容万年若衆 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
それを聞いて、豊世はお雪と微笑えみかわした。名古屋から送るべきはずの金も届かないことを、心細そうに叔父叔母の前で話した。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
さすがに会心の微笑えみをもらし、妻の松の前や鶴の前が身まかったということをきいたときには、涙を流したが、帰洛の勧めには、最初から首を横に振った。
俊寛 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
お丹片頬かたほ微笑えみを含み、「じゃあ御拘引おつれ下さいますかね。」巡査少し慌てて、「どこへ。」「はてさ、御役所へ。」「何い。」とまなこみはれば、お丹笑い出し
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
時々隣の叔母さんは粗末な垣根のところへやって来て、お雪に声を掛けたり、お歯黒の光る口元に微笑えみを見せたりした。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「これでござるか、天草一揆の折、分捕った十字架クルスを鋳直した物でござる」と彼は得意らしい微笑えみを洩した。
恩を返す話 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
はしけくさりきて本船と別るる時、乗客は再び観音丸かんのんまると船長との万歳をとなえぬ。甲板デッキに立てる船長はぼうだっして、満面に微笑えみたたえつつ答礼せり。はしけ漕出こぎいだしたり。
取舵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「これが泉ちゃんですか」と言って子供の方を見る客の顔にはようやく以前のふるい鈴木の家の主人公らしい微笑えみが浮んだ。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
その声、その呼吸いき、その姿、その声、その呼吸、その姿。伯爵夫人はうれしげに、いとあどけなき微笑えみを含みて高峰の手より手をはなし、ばったり、枕に伏すとぞ見えし、くちびるの色変わりたり。
外科室 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
こうおげんの方から言うと、熊吉は、額のところに手をあてて、いくらか安心したような微笑えみを見せた。
ある女の生涯 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「む、これかえ。」と俯向うつむきて、胸を見て、小親は艶麗あでやか微笑えみを含みぬ。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「そうかなし」とお春は振向いて、嬉しそうな微笑えみを見せた。「貴方あんたの島田も恰好かっこうが好く出来た」
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「おや、忘れていた、もう煮詰ったようだ。」とふたを取れば、煎薬の香芬々ふんぷん。すぐに下して、「お前ねえ。」と女の児を見返れば、しきりに毬をもてあそべり。美人は微笑えみを含みて、「つけますかい。」
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「だって、どう書いて好いか解らないんですもの」と妹は首をかしげて、娘らしい微笑えみを見せた。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
白糸は微笑えみを含みて、あきれたる馭者のおもてつつ
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「ええ」とお仙は微笑えみを浮べて、「それから方々暗い処を歩いて、しまいに木のある明るい処へ出た。草臥くたびれたろうから休めッて、男の人が言うから、私も腰を掛けて休んだ……」
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「見世物小屋さ」と白糸は異様の微笑えみを含みぬ。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
パアクの祭の日らしく着更きかえた仏蘭西風の黒い衣裳は、やせぎすで、きゃしゃなその娘の姿によく似合って見えた。娘は岡の側へ来て、微笑えみを見せながら白い処女おとめらしい手を差出した。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
恐気おそれげもなく言放てる、片頬に微笑えみを含みたり。
琵琶伝 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
岡見と捨吉とが語り合う側で、涼子はかすかな深い微笑えみを見せていた。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
看護婦は窮したる微笑えみを含みて
外科室 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お貞は淋しげなる微笑えみを含み
化銀杏 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
微笑えみを含んで言った。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)