御新造ごしんぞ)” の例文
侍「これ吉次きちじ、少々明神下に買物があるから、遅くなるかも知れんから先へ帰って、旦那様はあとからぐに帰ると御新造ごしんぞにそう云え」
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「だけど、お前さん。歴々のお旗本の御用人さまが両国の橋向うの蛇つかいを御新造ごしんぞにする。そんなことが出来ると思っているの」
両国の秋 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
その得意先とくいさきの一けん橋場はしば妾宅せふたくにゐる御新造ごしんぞがおいと姿すがたを見て是非ぜひ娘分むすめぶんにして行末ゆくすゑ立派りつぱな芸者にしたてたいと云出いひだした事からである。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
「今御新造ごしんぞさん(豊世)が買物に行くと言って、そこまで送って来てくれました。久し振で東京へ出たら、サッパリ様子が解りません」
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
十九の年のあやまちも、六年前の夢となって、お市は今なお水々しい二十五の御新造ごしんぞぶり、良人の曾我部兵庫は、四十近い寡黙かもくな侍であった。
夕顔の門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
留守るす細君さいくん——(評判ひやうばん賢婦人けんぷじんだから厚禮こうれいして)——御新造ごしんぞ子供こどもたちをれてからうじてなかをのがれたばかり、なんにもない。
十六夜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
御新造ごしんぞのお利榮さんと、私と手代の勘次郎と、下女のお萬と、それつきりでございます。——それから離室はなれのお安さん」
伯父樣おぢさまきずのつかぬやう、我身わがみ頓死とんしするはうきかと御新造ごしんぞ起居たちゐにしたがひて、こゝろはかけすゞりのもとにさまよひぬ。
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
そんな事をいったってお父さん、長谷川さんの御新造ごしんぞさんだって、束髪に結って、こまっかいたまのついた網をかけている。
御新造ごしんぞ小才子しょうさいしのはびこるこの世に、あんたあ珍しい大魚を釣り上げましたなあ、でかした、でかした! はっははは、大事にしてあげなさい」
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「その時分から私は、嫌だ嫌だと思っていましたよ。何しろ薄暗いランプの光に、あの白犬が御新造ごしんぞの寝顔をしげしげ見ていた事もあったんですから、——」
奇怪な再会 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「頼まれちゃやれません。時に御新造ごしんぞ、私はもう一ぺん危ないつるぎの刃渡りをしてみようと思うんで。これはさる人から頼まれて、慾と二人づれなんだが——」
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
御新造ごしんぞが娘にいっているんだ——あれ、変な奴が、衣笠きぬがささんのお裏口をのぞいている、このごろこまかい物が、よくなくなるが、屹度きっとあいつがるんだよ、泥棒だ
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
「広いんでね。いくらか湿けるようですがね。わたしは一日中、外で働いて、寝に帰るだけなんだから。湿けて困るのは、うちにじっとしている御新造ごしんぞさんだけでさ」
貴夫人でなくとも御新造ごしんぞさん位の処でも買物は下女任せだ。外の品物は下女に買わせても食品ばかりは自分で買わないと品質に非常の相違があって金銭にえられん。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
施けてもいいけれども御新造ごしんぞさまの悪口がいやですワ、だッて何時いつうかもお客様のいらッしゃる前で
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
三時に学校が退けると、今度は、御新造ごしんぞがおくで、別に弟子をとって裁縫を教えました。校長さんはとくべつに稽古にくる生徒たちに、漢文だの算盤だのを教えました。
浅草風土記 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
ものの解ったね。去年御新造ごしんぞが死んじまって、今じゃ道具ばかりひねくってるんだが——何でも素晴らしいものが、有るてえますよ。売ったらよっぽどな金目かねめだろうって話さ
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「ええ、奥さんと云う方は、古風な大店の御新造ごしんぞさんと云ったタイプの人ですからね。それに、これは去年の暮私が頼まれて作ったのですが、蜘蛛糸は本物の小道具なんですよ」
後光殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
右や左の御方様おんかたさまへ。旦那御新造ごしんぞ、紳士や淑女、お年寄がた、お若いお方。お立ち会い衆の皆さん諸君。トントその後は御無沙汰ばっかり。なぞと云うたらビックリなさる。なさる筈だよ三千世界が。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
その得意先とくいさきの一軒で橋場はしば妾宅しょうたくにいる御新造ごしんぞがお糸の姿を見て是非娘分むすめぶんにして行末ゆくすえは立派な芸者にしたてたいといい出した事からである。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
お話し二つに分れまして、蟠龍軒はお村を欺き取って弟の妾にして、御新造ごしんぞとも云われず妾ともつかず母諸共もろともこゝに引取られて居ります。
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
まこと御新造ごしんぞは、人づきあいはもとよりの事、かど、背戸へ姿を見せず、座敷牢とまでもないが、奥まった処に籠切こもりきりの、長年の狂女であった。
茸の舞姫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
組が違うのでよく知りませんが、もう御新造ごしんぞがある筈です。そうです、そうです。御新造様があると、あのお杉が話したことがありました。
半七捕物帳:15 鷹のゆくえ (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
当時では、中流の夫人を奥さんとは呼ばない、御新造ごしんぞさまと呼ぶのである。ぼくら生徒も「——御新造先生、ごしんぞ先生」と呼んだものだ。
その支度したく朝湯あさゆにみがきげてとしもこほあかつき、あたゝかき寢床ねどこうちより御新造ごしんぞ灰吹はいふきをたゝきて、これ/\と、此詞これ目覺めざましの時計とけいよりむねにひゞきて
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
やがて本陣の若い「御新造ごしんぞ」に似合わしい髪のかたちができ上がった。儀式ばった晴れの装いはとれて、さっぱりとした蒔絵まきえくしなぞがそれに代わった。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
白い四角な顔の、お習字を教える校長のお母さん、黒い細い顔で菊石あばたのある校長、丸い色白の御新造ごしんぞさんたちが、苦いお茶を出し、羊羹を出してもてなした。
「ええ、さようでございます。よく気のおつきになるような、下町の御新造ごしんぞさんというような方ですが、手前どもへは、はじめておいでで、くわしくは存じません」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
「それじゃ訊くが、あの結び文は何だえ、それを言って貰わなきゃア、御新造ごしんぞかばいようはない」
「ヘッ、おありがとう——と申しあげてえが、ウワア、なんて小汚え壺だ!こんなものアただもらってもいやだねえ。御新造ごしんぞ、こいつア、いくらにもいただけやせんぜ」
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
(鍋)「アラわたくしじゃ有りませんよ、オホホホホ。アラいやですよ……アラー御新造ごしんぞさアん引」
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
柳橋やなぎばしのが三人、代地だいちの待合の女将おかみが一人来ていたが、皆四十を越した人たちばかりで、それに小川の旦那だんなや中洲の大将などの御新造ごしんぞや御隠居が六人ばかり、男客は、宇治紫暁うじしぎょうと云う
老年 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
顔を出してもどこか気ぶッせいなので、由良のまえには長くいず、すぐ奥へ行って御新造ごしんぞだのお嬢さんだのゝまえに安気あんきな時間を送った。——御新造やお嬢さんはかれが贔負だった。
春泥 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
なんと、どうでございましょう、きれいにあの御新造ごしんぞをがんりきにくれてやっておくんなさるか、それとも、女にかけてはどっちの腕が強いか、思うさま張り合ってみようではございませんか
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
國「感心なお心掛けでございます、旦那も未だ御新造ごしんぞがないから貴嬢あなたが往って下されば私も安心だ、何しろ森松をよんで話して見ましょう」
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
蛇つかいの足を洗って相当の仮親かりおやをこしらえて、仁科林之助の御新造ごしんぞさまと呼ばせてみせると、男は重い口で自分に誓った。
両国の秋 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
いきほひじようじて、立處たちどころ一國一城いつこくいちじやうあるじこゝろざしてねらひをつけたのは、あらうことか、用人ようにん團右衞門だんゑもん御新造ごしんぞ、おきみ、とふ、としやうや二十はたち
二た面 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
打ち見たところ、五人扶持ぶちぐらいな御小人おこびとの住居でもあろうか。勝手つづきの庭も手狭てぜまで、気のよさそうな木綿着の御新造ごしんぞはらものを出してきた。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
其後そのご父親が死んだをりには差当さしあたり頼りのない母親は橋場はしば御新造ごしんぞの世話で今の煎餅屋せんべいやを出したやうな関係もあり
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
斯波しばさんの御新造ごしんぞといって、浅草蔵前の方にいたから、もしかすると民政党の斯波氏のおうちの方だったかもしれない。このひとが家元の格をもっていたようだった。
旦那だんな御新造ごしんぞくおれいを申ていととゝさんがひましたと、子細しさいらねばよろこかほつらや、まづ/\つてくだされ、すこようもあればときて内外うちと見廻みまはせば
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
小腰をひくめて「ちょいとお湯へ」と云ッてから、ふと何か思い出して、きもつぶした顔をして周章あわてて、「それから、あの、若し御新造ごしんぞさまがおかえんなすって御膳ごぜん召上めしやがるとおッしゃッたら、 ...
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
「若旦那が、新茅場町の福井屋に帰っている、御新造ごしんぞへの合図を送ったんで。へッ」
御新造ごしんぞは何しろ子供のように、可愛がっていらしった犬ですから、わざわざ牛乳を取ってやったり、宝丹ほうたんを口へふくませてやったり、随分大事になさいました。それに不思議はないんです。
奇怪な再会 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
はえは多かった。やがてお春の給仕で、一同食事を始めた。御家大事と勤め顔な大番頭の嘉助親子、年若な幸作、その他手代小僧なども、旦那や御新造ごしんぞ背後うしろを通って、各自めいめい定まった席に着いた。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
あの切髪の御新造ごしんぞけむに捲いてやったのが面白いんでございます、それから先生——先生を馬に乗せてこっちの方へお連れ申すと、あとから七兵衛と、それから先生をかたきだといっている若い侍と
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
わたしつてるうちは、時間じかんだけも御新造ごしんぞらないものでせう。らないものなら、其間そのあひだうされたつて差支さしつかへないぢやありませんか。
みつ柏 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
この時代には江戸のなごりで、御新造ごしんぞということばがまだ用いられていました。それは奥さんの次で、おかみさんの上です。
青蛙堂鬼談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
由「これは御新造ごしんぞさん……これはどうも村上の御新造ごしんぞうさん、此処でお茶を売って居らっしゃるとは何様どんな探報者たんぽうしゃでも気が付きません……どうしてまア」
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)