待合まちあい)” の例文
三人づれの客だと、電話であらかじめ女の方へ交渉して、客の方は聯絡れんらくのついている待合まちあいか旅館かへ行ってもらって家へは上げないようにしている。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
待合まちあいにしてある次の間には幾ら病人がまっていても、翁は小さい煙管きせるで雲井を吹かしながら、ゆっくり盆栽をながめていた。
カズイスチカ (新字新仮名) / 森鴎外(著)
このあいだ高見順さんの「霙降る背景」と云う小説を読んでいたら、郊外の待合まちあいで朝御飯を食べるところが描写してあった。
朝御飯 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
何かの会合のくずれで、近松秋江ちかまつしゅうこう長田幹彦ながたみきひこ、私、それに樗陰が加わって、神楽坂かぐらざか待合まちあいで遊んだことがあったが、誰も懐中は乏しかったので
文壇昔ばなし (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
これは「ひやっこい/\」の水売で、処々にあった水茶屋みずぢゃやというのは別なもの、今の待合まちあいです。また貸席を兼ねたものです。
江戸か東京か (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
……これだと料理屋、待合まちあいなどの娘で、円髷まるまげった三十そこらのでも、差支さしつかえぬ。むかしは江戸にも相応ふさわしいのがあった、娘分むすめぶんと云うのである。
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
もうその時分車なんかありやしない、テクテクと、十何町の道を、行きつけの待合まちあいへ歩いた。酔狂すいきょうな男もあったものだ。
一人二役 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「ええ、そりゃ借手はいくらでもあるんでしょう。現にもう一口ばかり貸したんですって。彼所あすこいらの待合まちあいか何かへ」
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
被官稲荷ひかんいなりの傍の待合まちあいを出た一人の女は、浅草神社の背後うしろを通って、観音堂の横手に往こうとして、右側のみちぶちに立った大きな公孫樹の処まで往くと
水魔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
芸妓のとりまきが一流と二流の相違は、料亭ちゃや待合まちあいの格式、遊ぶ土地、すべての附合の範囲と広さにおよぼしている。
しかるにそのおいなる田崎某たざきぼう妾に向かいて、ある遊廓にひそめるよし告げければ、妾先ず行きて磯山の在否を問いしに、待合まちあい女将おかみで来りて、あらずと弁ず。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
博多はかた市を貫流する那珂川なかがわ春吉橋はるよしばしの畔、流れに面した小粋こいき待合まちあいの一室で、二人の奇妙な生活がはじまった。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
「……だから……おれは近いうちに、伊奈子と二人で家を借りて住むつもりだ。今までみたいに待合まちあいにばかり泊っていちゃ、伊奈子のためにならないからナ。ハハハハハ」
鉄鎚 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
橋場の渡しのほとりなるとある水荘の門に山木兵造やまきひょうぞう別邸とあるを見ずば、なにがし待合まちあいかと思わるべき家作やづくりの、しかも音締ねじめのおとしめやかに婀娜あだめきたる島田の障子しょうじに映るか
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
これは後で知ったことであるが、この老主人は何でも浅草公園附近の待合まちあいに入りびたって、似寄によった連中と夜昼ぶっ通しに賭博とばくをしたり飲んだりして日を送っているらしかった。
いわばその界隈かいわいにたくさんある待合まちあいの建て物に手を入れて使っているような病院だった。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
それほど、このきらびやかな待合まちあいの通りでは彼の着物がみすぼらしく、溝板どぶいたのような下駄をはいているのであった。誰もかえり見るものもなく、また、知合いとてもないのである。
幻影の都市 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
自分免許の政治家と名乗っている人が家では天保時代てんぽうじだいの台所で野蛮風の食物をきっして、外へ出ると待合まちあいで酒を飲んで芸者を引張るという有様ありさまではどうして一国の文明を進められましょう。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
白「そんな話をこゝでしては困るわな、しかし十九年ぶりで親子の対面、嘸話があろうが、いらざる事だが、供に知れてもくない事もあろうから、何処どこ待合まちあいか何かへ行ってするがいゝ」
茶器を持ち込む前に洗ってそろえておく控えの間(水屋みずや)と、客が茶室へはいれと呼ばれるまで待っている玄関(待合まちあい)と、待合と茶室を連絡している庭の小道(露地ろじ)とから成っている。
茶の本:04 茶の本 (新字新仮名) / 岡倉天心岡倉覚三(著)
無神無仏又大阪の東北のほう葭屋橋あしやばしと云う橋があるその橋手前の処を築地といって、在昔むかしは誠に如何いかがうちばかり並んで居て、マア待合まちあいをする地獄屋とでも云うような内実きたない町であったが
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
第一、公衆の目に触れないように場末の地を限って手軽な待合まちあい営業を黙認し、その営業の不徳を自覚せしめて、出来るだけ目立たぬよう隠密にそれを営む心掛を徹底させることが必要である。
私娼の撲滅について (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
木挽町こびきちょう五丁目辺の或る待合まちあいへ、二三年以前新橋しんばし芸妓げいぎ某が、本町ほんちょう辺の客をくわえ込んで、泊った事が有った、何でも明方だそうだが、客が眼を覚して枕をもたげると、坐敷のすみに何か居るようだ
枯尾花 (新字新仮名) / 関根黙庵(著)
それも煙草屋とか駄菓子屋のようなものではとても一同がやってゆけそうにないが、一度は本郷の竜岡町へ菓子屋の店を出したこともあった。そこで妻の英断でやり出したのが意外な待合まちあいなのです。
随分待合まちあい入りまでもしてかれらと提携する金儲けの機会をうかがっていた。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
そういってお宮のいる置屋うちからつい近所の待合まちあいに入った。
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
三等待合まちあい昼寝の男起き上り
五百五十句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
待合まちあいさ」
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
待合まちあい?」
渾沌未分 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
さても僕の初めて芸者の帯解く姿を見たりしは既に記せし如く富士見町の寿鶴といふ待合まちあいにして、勘定何もかも一切にて金参円を出でざりし。
桑中喜語 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
東京の家庭にもこれに似た遊戯があると聞いて、自分はかつてある待合まちあいで芸者にやらせて見たことがあるが、唄の文句も節廻しも大阪のとはやや違う。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
相沢きんは相当の財産を溜め込んでいるだろうと云う風評であったが、きんはかつて待合まちあいをしようとか、料理屋をしようなぞとは一度も考えた事がなかった。
晩菊 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
女はそこの横町よこちょうを左へ曲った。むこうから待合まちあいの帰りらしい二人のわかい男が来たが、その二人の眼は哲郎の方へじろじろとそそがれた。彼はきまりが悪かった。
青い紐 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
銀座のまぶしいショウ・ウィンドウを見ている人には自家用自動車で待合まちあい通いやカッフェー入りをする人には、夏は扇風機せんぷうき、冬は暖炉だんろに、思うようしたい放題のことのできる人には
代地に名うての待合まちあい朝倉あさくらの戸口を開けて、つと入り来るは四十近いでつぷり太つた男、白の縞上布しまじょうふ帷子かたびらえりくつろげて、寄道よりみちしたお蔭にこの悪い道を歩かせられしため暑さも一入ひとしおなり
そめちがへ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
待合まちあいや、料理店をはじめると、分明はっきりした区別がないので、あんな風になったと思われますから、はじめるならいっそ、みんなから見張ってもらっているこんな商業しょうばいの方が好いと思って
一世お鯉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
横町の稲荷いなりの鄰に何庵とかいふ蕎麦屋そばやの二階より口をかけて小しまを呼べば、すぐに来て、あら、お酒がいらないのなら、待合まちあいさんから呼べばいいのに。
桑中喜語 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
年増の隻手かたては道夫の肩にかかった。道夫は待合まちあいにでも往ってるような気になって女に体をまかして往った。
馬の顔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
新富座主の豪遊する、木挽町の待合まちあいは、明治顕官の遊ぶところで、当時の待合のおかみ、芸妓げいしゃたちは、お客の顕官を友達のように思っていたりするので、勘弥とその人たちを結びつかせた。
朱絃舎浜子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
わが十七、八の頃一番町の家に来りて、ゆうべは江戸川端の待合まちあいにて芸者の寝込を捕へたりなぞ、その後家に来りし車夫に語りゐたりしを聞きし事ありき。
礫川徜徉記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
奴さん自暴自棄やけくそになって、もと往ったことのある烏森からすもり待合まちあいへ往って、女を対手あいてにして酒を飲んでいたが、それも面白くないので、十二時ころになって自宅うちへ帰ったさ
雨夜草紙 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「知れたもんさ。しかし金で女を買うなんざア、ちッとおひと好過よすざらア。僕ァ公園で二、三軒待合まちあいを知ってるよ。連れてッてやろう。万事ばんじ方寸ほうすんうちにありさ。」
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
某夜あるよ、築地の待合まちあいへ客に呼ばれて往った某妓あるおんなが、迎えの車が来ないので一人で歩いて帰り、釆女橋まで往ったところで、川が無くなって一めんにくさ茫茫ぼうぼうの野原となった。
築地の川獺 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
京子は芸者に出ていた頃のお客をそのまま妾宅しょうたく引込ひきこみ、それでも足りない時は知合いの待合まちあいや結婚媒介所を歩き廻って、結句何不自由もなく日を送っているのを
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「お茶の水のアパートメントへ往ってもいいし、新橋の待合まちあいへ往ってもいいよ」
文妖伝 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
待合まちあいだよ。」とささやき聞かせ、「差しつかえはないだろう。今夜はおそいからね。僕の知ってる処がいいだろう。それとも君江さん。どこか知っているなら、そこへ行こう。」
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
彼はその眼をまた入口の方へやった。セルのはかま穿いた背の高い学生が出て往くところであった。……ついすると、待合まちあいへ往っていて、じょちゅうでも呼びによこすかも判らないぞ、と、彼はまた思った。
水魔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
肩のいかった身体付からだつきのがっしりした女であるが、長年新富町しんとみちょうの何とやらいう待合まちあいの女中をしていたとかいうので襟付えりつき紡績縞ぼうせきじま双子ふたこ鯉口半纏こいぐちはんてんを重ねた襟元に新しい沢瀉屋おもだかや手拭てぬぐいを掛け
雪解 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
お千代はいけはた待合まちあいで出会ったことがあるというので、もし近処のものにでも秘密の身の上をしゃべられでもしたらと、万一の事を心配して、早速現在の貸間をさがして引移ったわけである。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
日頃ひごろ贔屓ひいきにしてくれる待合まちあい二、三軒へ問合したがやはり同じことである。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)