しか)” の例文
「困ったねえ、えらい人が来るんだよ。しかられるといけないからもう帰らうか。」私がひましたら慶次郎は少し怒って答へました。
二人の役人 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
白刃しらはげ、素槍すやりかまへてくのである。こんなのは、やがて大叱おほしかられにしかられて、たばにしてお取上とりあげにつたが……うであらう。
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
そして、もしも人間が性善せいぜんなるものならば、博雄をしかったり、責めたりすることなく、伸びるがままに伸びしめたいものだと思った。
親は眺めて考えている (新字新仮名) / 金森徳次郎(著)
「僕です」私はもうしかられることなんか何でもないと思って返事しました。「トンチキ野郎などと大変な口をいたのもお前だろう」
崩れる鬼影 (新字新仮名) / 海野十三(著)
喧嘩のおわりはいつも光一が母にしかられることになっている。だがふたりのむつまじさはよその見る目もうらやましいほどであった。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
うたわないのではありませんが、まるで内所話ないしょばなしでもするように小さな声しか出さないのです。しかもしかられると全く出なくなるのです。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
とにかくに四つか五つの年から数年の間、毎年この実が熟すると必ずりに行き、草履ぞうりを泥だらけにしてしかられたことも覚えている。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
勝平は、しかり付けるように怒鳴ると、丁度勝彦の身体からだが、多勢の力で車体から引き離されたのをさいわいに、運転手に発車の合図を与えた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
いやがる妻を紀昌はしかりつけて、無理に機を織り続けさせた。来る日も来る日もかれはこの可笑おかしな恰好かっこうで、瞬きせざる修練を重ねる。
名人伝 (新字新仮名) / 中島敦(著)
「Kさん、あんたは馬鹿だよ。あんこうの肉なんか、あんこう食いは昔から食わないと決まっていますよ」としかりつけるところだろう。
鮟鱇一夕話 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
貞吉は茶の間へ呼ばれて、さんざんしかられて、理由わけはなしに、丹精した花ガルタの画を、半できのまま取上げられてしまいまいた。
祖母 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
大人おとな大人おとなしかりとばされるというのは、なさけないことだろうと、人力曳じんりきひきの海蔵かいぞうさんは、利助りすけさんの気持きもちをくんでやりました。
牛をつないだ椿の木 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
ヘロデ王にしかられるとべそをかく、褒賞ほうびをもらうと押し戴く、ディヤナには色目を使うという工合で、天晴あっぱれ一役をやってのけました。
ねて、どうすかしても、しかつてもはうとしませんので、女官じよかん面目めんぼくなさそうに宮中きゆうちゆうかへつてそのことをまをげました。
竹取物語 (旧字旧仮名) / 和田万吉(著)
この句は凡聖一如の境に入ることの出来ないのをしかっているのだ、というほどの意であって、大乗の根本を示された御言葉である。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
私の両親は食事しながら笑ったりおしゃべりなどすると、これ、あばらへ御飯が引掛ひっかかりますといってしかった事を私は今に覚えている。
楢重雑筆 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
左様さようさ、ず日本一の大金持おおがねもちになって思うさま金を使うて見ようと思いますと云うと、兄が苦い顔してしかったから、私が返問はんもんして
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
かへりの遅きを母の親案じて尋ねに来てくれたをば時機しほに家へは戻つたれど、母も物いはず父親てておやも無言に、れ一人私をばしかる物もなく
にごりえ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「僕は友人としての岸本君を尊敬してはいますが」とその時、元園町は酒の上で岸本をしかるように言った。「一体、この男は馬鹿です」
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そうなれば、なまけものだといってしかられることもないでしょうし、だいいち、すきなように、ぶらぶららすこともできるでしょう。
與吉よきちはおつぎにかれるときいつもくおつぎの乳房ちぶさいぢるのであつた。五月蠅うるさがつて邪險じやけんしかつてても與吉よきちあまえてわらつてる。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
ロミオ なう、しかってくださるな。此度こんどをんなは、此方こちおもへば、彼方あちでもおもひ、此方こちしたへば、彼方あちでもしたふ。以前さきのはさうでかった。
「おしかりをうけるかもしれぬが、一たび先生のところへ立ち帰って、この後の方針をきめるとしよう。それよりほかに思案はない」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
耳許みみもとしかとがめるような声がするとともに右の腕首をぐいとつかんだ者があった。務は浮かしていた体をしかたなしに下に落した。
白っぽい洋服 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
幾時間いくじかんたっても彼はあきなかった。はははそれを気にもとめなかったが、やがて、たまらなくなって、ふいにしかりつけるのだった。
ジャン・クリストフ (新字新仮名) / ロマン・ロラン(著)
私はあっけにとられて母の顔を見直しました。父は私をしかって、そうして母に言いつけてその犬の子を家の中にいれさせました。
男女同権 (新字新仮名) / 太宰治(著)
「殖えられてまるものか」と、犬塚はしかるように云って、特別に厚く切ってあるらしい沢庵たくあんを、白い、鋭い前歯でみ切った。
食堂 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
しかりようもねえだからね、そのたんびにおら塗り直しているだよ、おらのほかにこいつをきれいにしといてやる者はねえだからね
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
ところがチーキャブの言うに「主人が大切の用事を帯びて居るのに不届きな奴だ。行かぬということがあるか」と非常な声でしかり付けた。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
街街の一隅をけ廻っている、いくら悪戯いたずらをしてもしかれない墨を顔につけた腕白な少年がいるものだが、栖方はそんな少年の姿をしている。
微笑 (新字新仮名) / 横光利一(著)
父にはしかられ、母にはなだめられて、おせきはしよんぼりと奥へ這入はいつたが、胸一杯の不安と恐怖とは決して納まらなかつた。
なほ桂月様私の新体詩まがひのものを、つたなし/\、柄になきことすなと御深切しんせつにおしかり下され候ことかたじけなく思ひ候。
ひらきぶみ (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
そこでいつもながらの捨身の勇気を奮い気の弱い筆をしかって進めることにした。よしやわざくれ、作品のモチーフとなる切情に殉ぜんかなと
雛妓 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
と、いままでの元気はどこへやら、ホールはしかられたねこのようにいくじなくちぢまって、しばらくたってから、やっとこさで
見物人が「やア御両人ごりょうにん。」「よいしょ。やけます。」なぞと叫ぶ。笑う声。「静かにしろい。」としかりつける熱情家もあった。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
裏庭の梅林に小さな稲荷いなりほこらのあるのを、次兄が、開けて見たら妙な形の石があったというので、祖母にひどくしかられました。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
で、先生はきっと私をしかりはしないだろうと私は思った。そして、ただ一人の味方のところに行っているのだと思ってかえって嬉しかった。
ルンペンが大声にどなると、たちまち地上の各所から「やかましい」「静かにしろ」などというしかり声がくように起こった。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ときどき眼エいたりしやはりますのんで、ほんまは本宅の方いお知らせせないきまへんねんけど、そしたらとうちゃんしかられはりますし
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
あなたも同じ高知県なので、勿論もちろんお逢いできると思い、慌てて道を歩き交通巡査じゅんさしかられるほどの興奮の仕方で出席しました。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
敦子あつこさまの物語ものがたりはまだいろいろありましたが、だんだんきいてると、あのかたなにより神様かみさまからおしかりをけたのは、自殺じさつそのものよりも
「あら、みのりさん、あなたはまた来ているのね。お父さまに見つかるとしかられるわ。さあお部屋へ行っていらっしゃいね」
宝石の序曲 (新字新仮名) / 松本泰(著)
その間にもまた考えましたことは、こんな独断ひとりぎめなことを師匠の留守にして、もしや、師匠が帰って、馬鹿な奴だといってしかられるか知れない。
堀主水が鎌倉かまくら蟄居ちっきょしていると、江戸から早馬で注進があった日に、宮内と慎九郎とは、支配頭に呼び出されて、頭ごなしにしかりつけられた。
討たせてやらぬ敵討 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
僕はしかられたような、悪いことをしていたような気がして、大急ぎで、碁石を白も黒もかまわず入れ物にしまってしまった。
碁石を呑んだ八っちゃん (新字新仮名) / 有島武郎(著)
彼女はそんなことは云ふものでないと孫をしかつてゐる。そして靴と靴下だけは買つてやつたが、洋服は都合して送るやうにと云ふのであつた。
哀しき父 (新字旧仮名) / 葛西善蔵(著)
父にしかられた保吉の泣き出してしまったのは勿論もちろんである。が、いかに叱られたにしろ、わからないことのわかる道理はない。
少年 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
しかられ、それで存分に泣き声を出した。泣くととまらぬいつもの癖で、まるで泣き声で顔をなぐられている気がお君はして
(新字新仮名) / 織田作之助(著)
「おまえは、なん馬鹿ばかだらう。うつかり秘密話ないしよばなしもできやしない」と、たいへんしかられました。鸚鵡あふむしかられてどぎまぎしました。
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
阿母さんも居ない留守るすに兄をにがして遣つては、んなに阿父さんからしかられるかも知れぬ。貢さんは躊躇ためらつて鼻洟はなみづすヽつた。
蓬生 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)