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卒然
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そつぜん
ふりがな文庫
“
卒然
(
そつぜん
)” の例文
ところがこの注意深い母がその折
卒然
(
そつぜん
)
と自分に向って、「二郎、ここだけの話だが、いったいお
直
(
なお
)
の気立は好いのかね悪いのかね」
行人
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
それからあたかも
卒然
(
そつぜん
)
と天上の
黙示
(
もくじ
)
でも
下
(
くだ
)
ったように、「これはこうでしょう」と呼びかけながら、一気にその個所を解決した。
十円札
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
鬼のごとく立て
籠
(
こも
)
って来たひたぶるな身に——ふと聞えてきた琴の音は、
卒然
(
そつぜん
)
と、この中の将士の心に、さまざまな思いを
喚
(
よ
)
び起させた。
新書太閤記:06 第六分冊
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
水草も魚の影も
卒然
(
そつぜん
)
と渠の視界から消え去り、急に、
得
(
え
)
もいわれぬ
蘭麝
(
らんじゃ
)
の
匂
(
にお
)
いが漂うてきた。と思うと、見慣れぬ二人の人物がこちらへ進んで来るのを渠は見た。
悟浄出世
(新字新仮名)
/
中島敦
(著)
それでS、H
氏
(
し
)
とこゝで
逢
(
あ
)
つたのを
幸
(
さいわ
)
ひに
私
(
わたし
)
は
手軽
(
てがる
)
にその
事
(
こと
)
を
話
(
はな
)
したのであつた。するとS、H
氏
(
し
)
は「
危険
(
きけん
)
だな——」といふやうな
口吻
(
こうふん
)
を
卒然
(
そつぜん
)
洩
(
も
)
らしたものであつた。
微笑の渦
(新字旧仮名)
/
徳田秋声
(著)
▼ もっと見る
しかしその刀と並んでいる坤竜丸を眼にするたびに、かれは何よりも先に一時斬って棄てねばならぬわが心中の私情に気がついて、
卒然
(
そつぜん
)
として襟を正し肩を張るのだった。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
この奇妙さがふたたびリゼットへ
稼業
(
かぎょう
)
に対しての、冒険の勇気を与えて彼女は
毎夜
(
まいよ
)
のような
流眄
(
ながしめ
)
を八方に配り出した。しかも今夜の「新らしい工夫」に気付くと
卒然
(
そつぜん
)
と彼女の勇気が
倍加
(
ばいか
)
した。
売春婦リゼット
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
夢としか思われなかった海の神の美しい
乙女
(
おとめ
)
、それを母とする霊なる童児、
如意
(
にょい
)
の
宝珠
(
ほうじゅ
)
や
知慧
(
ちえ
)
の言葉というような数々の贈り物なども、ただ
卒然
(
そつぜん
)
として人間の空想に生まれたものではなくて
海上の道
(新字新仮名)
/
柳田国男
(著)
武蔵は、
萌
(
も
)
え
出
(
いず
)
る植物の本能のように、体のうちから外へ向って
象
(
あら
)
われようとして
熄
(
や
)
まないものに、
卒然
(
そつぜん
)
と、筋肉がうずいてくるのを覚えた。
宮本武蔵:05 風の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
宗助
(
そうすけ
)
は
此
(
この
)
派出好
(
はでずき
)
な
弟
(
おとうと
)
が、
其後
(
そのご
)
何
(
ど
)
んな
徑路
(
けいろ
)
を
取
(
と
)
つて、
何
(
ど
)
う
發展
(
はつてん
)
したかを、
氣味
(
きみ
)
の
惡
(
わる
)
い
運命
(
うんめい
)
の
意思
(
いし
)
を
窺
(
うかゞ
)
ふ
一端
(
いつたん
)
として、
主人
(
しゆじん
)
に
聞
(
き
)
いて
見
(
み
)
た。
主人
(
しゆじん
)
は
卒然
(
そつぜん
)
門
(旧字旧仮名)
/
夏目漱石
(著)
よしまた覚えているとしても——自分は
卒然
(
そつぜん
)
として、当時自分たちが先生に浴びせかけた、悪意のある笑い声を思い出すと、結局
名乗
(
なのり
)
なぞはあげない方が、
遥
(
はるか
)
に先生を尊敬する
所以
(
ゆえん
)
だと思い直した。
毛利先生
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
ひたぶるに
凝視
(
みつ
)
めてあれば
卒然
(
そつぜん
)
として距離の觀念
失
(
な
)
くなりにけり
和歌でない歌
(旧字旧仮名)
/
中島敦
(著)
胸中の憤怒を一時に吐いたような玄徳の激色に、ふたりは打たれたように一瞬沈黙していたが、そのうちに孔明が
卒然
(
そつぜん
)
と
面
(
おもて
)
をおおって
哭
(
な
)
きかなしんだ。
三国志:09 図南の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
「
実
(
じつ
)
は
君
(
きみ
)
に
話
(
はな
)
したい事があるんだが」と代助は
遂
(
つい
)
に云ひ
出
(
だ
)
した。すると、平岡は急に様子を変へて、落ち
付
(
つ
)
かない
眼
(
め
)
を代助の
上
(
うへ
)
に
注
(
そゝ
)
いだが、
卒然
(
そつぜん
)
として
それから
(新字旧仮名)
/
夏目漱石
(著)
宗仁の書面は彼の指に
解
(
ほぐ
)
れた。極めて短文であり、また非常な走り書である。——が、一読
卒然
(
そつぜん
)
として、秀吉の
頸
(
えり
)
もとの毛は、燈火にそそけ立っていた。
新書太閤記:07 第七分冊
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
息が切れたから、立ち留まって仰向くと、火の
粉
(
こ
)
がもう頭の上を通る。
霜
(
しも
)
を置く空の澄み切って深い中に、数を尽くして飛んで来ては
卒然
(
そつぜん
)
と消えてしまう。
永日小品
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
宋江はそうした風景をながめると、また
卒然
(
そつぜん
)
と、あれきり絶えている家郷の老父を思い出して、つい涙をたれた。
新・水滸伝
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
御米
(
およね
)
は
卒然
(
そつぜん
)
何
(
なに
)
とも
知
(
し
)
れない
恐怖
(
きようふ
)
の
念
(
ねん
)
に
襲
(
おそ
)
はれた
如
(
ごと
)
くに
立
(
た
)
ち
上
(
あ
)
がつたが、
殆
(
ほと
)
んど
器械的
(
きかいてき
)
に、
戸棚
(
とだな
)
から
夜具蒲團
(
やぐふとん
)
を
取
(
と
)
り
出
(
だ
)
して、
夫
(
をつと
)
の
云
(
い
)
ひ
付
(
つ
)
け
通
(
どほ
)
り
床
(
とこ
)
を
延
(
の
)
べ
始
(
はじ
)
めた。
門
(旧字旧仮名)
/
夏目漱石
(著)
はじめ、変を知ったとき、城中の重臣は、
卒然
(
そつぜん
)
と、足もとを揺すられたような
驚愕
(
きょうがく
)
におそわれたが、家康のつぶやきと、落着きすました白湯の呑み方を見て
新書太閤記:11 第十一分冊
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
運命は
卒然
(
そつぜん
)
としてこの二人を一堂のうちに会したるのみにて、その他には何事をも語らぬ。
草枕
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
しかし、われながらその不出来なのを
嘆
(
たん
)
じて、その夜、床に入ってからも種々工夫を
凝
(
こ
)
らしていたが、
卒然
(
そつぜん
)
悟るところがあって、起き出でてまた、描き出したということである。
随筆 宮本武蔵
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
私は彼の様子を見てようやく安心しました。すると彼は
卒然
(
そつぜん
)
「覚悟?」と聞きました。そうして私がまだ何とも答えない先に「覚悟、——覚悟ならない事もない」と付け加えました。
こころ
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
長じて、ものまなびし始めてからでも、たれも母を、汚ない女とは、教えもしなかった。それが、
卒然
(
そつぜん
)
として、一個の、
淫
(
みだ
)
らな肉塊でしかなかったと分かったとき、清盛は、腹が立った。
新・平家物語:02 ちげぐさの巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
宗助
(
そうすけ
)
が
始
(
はじ
)
めて
其
(
その
)
視線
(
しせん
)
に
接
(
せつ
)
した
時
(
とき
)
は、
暗中
(
あんちゆう
)
に
卒然
(
そつぜん
)
として
白刄
(
はくじん
)
を
見
(
み
)
る
思
(
おもひ
)
があつた。
門
(旧字旧仮名)
/
夏目漱石
(著)
ところがいよいよ夫として朝夕
妻
(
さい
)
と顔を合せてみると、私の
果敢
(
はか
)
ない希望は手厳しい現実のために
脆
(
もろ
)
くも破壊されてしまいました。私は妻と顔を合せているうちに、
卒然
(
そつぜん
)
Kに
脅
(
おびや
)
かされるのです。
こころ
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
それを考えると、
卒然
(
そつぜん
)
と、小次郎に対する愛惜と、尊敬を抱いた。
宮本武蔵:08 円明の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
“卒然”の意味
《名詞》
卒然(そつぜん)
にわかなこと。また、そのようなさま。突然。
軽はずみなこと。また、そのようなさま。
(出典:Wiktionary)
卒
常用漢字
小4
部首:⼗
8画
然
常用漢字
小4
部首:⽕
12画
“卒”で始まる語句
卒
卒塔婆
卒業
卒爾
卒倒
卒中
卒都婆
卒伍
卒塔婆小町
卒去