しきり)” の例文
で何事に依らず氣疎けうとくなツて、頭髪かみも埃にまみれたまゝにそゝけ立ツて、一段とやつれひどく見える。そしてしきりと故郷を戀しがツてゐる。
昔の女 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
が、何だか其ではいささか相済まぬような気もして何となく躊躇ちゅうちょせられる一方で、矢張やっぱり何だかしきりに……こう……敬意を表したくてたまらない。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
夜延仕よなしでも、達者な車夫で、一もん字にその引返す時は、葛木は伏せたおもてを挙げて、肩をそびやかすごとくせた腕を組みながら、しきりに飛ぶ星を仰いだ。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
今は心もそぞろに足をはやむれば、土蔵のかども間近になりて其処そこをだに無事に過ぎなば、としきりに急がるる折しも、人の影はとつとしてその角よりあらはれつ。宮はめくるめきぬ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
まだその時分は陶工やきものしの名なんぞ一ツだって知っていた訳では無かったが、ただ何となく気に入ったのでしきりとこの猪口を面白おもしろがると、その娘の父がおれにむかって
太郎坊 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
縦令たとひ主命とはいひながら、罪なき禽獣ものいたずらにいためんは、快き事にあらず。彼の金眸に比べては、その悪五十歩百歩なり。ここをもて某常よりこの生業なりわいを棄てんと、思ふことしきりなりき。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
しかるに病院びやうゐんうちでは院長ゐんちやうアンドレイ、エヒミチが六號室がうしつしきりかよしたのをあやしんで、其評判そのひやうばんたかくなり、代診だいしんも、看護婦かんごふも、一やうなんためくのか、なん數時間餘すうじかんよ那麼處あんなところにゐるのか
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
矢張やっぱり私共でなければ出来ぬ高尚な事のように思って、しきりに若い女に撞着ぶつかりたがっているうちに、望む所の若い女が遂に向うから来て撞着ぶつかった。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
然るに何様どういうものだったか、其時は勢威日に盛んであった丁謂は、寂照をとどめんと欲して、しきり姑蘇こその山水の美を説き、照の徒弟をして答釈をもてかえらしめ、照を呉門寺に置いて
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
昼間だから、夜分のようにはないんですが、はたで何かいってしきりに慰めたようだった。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
何でも昨日きのふ医者が湯治が良いと言うてしきりに勧めたらしいのだ。いや、もう急の思着おもひつきで、脚下あしもとから鳥のつやうな騒をして、十二時三十分の滊車きしやで。ああ、ひとりで寂いところ、まあ茶でもれやう
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
しかるに病院びょういんうちでは院長いんちょうアンドレイ、エヒミチが六号室ごうしつしきりかよしたのをあやしんで、その評判ひょうばんたかくなり、代診だいしんも、看護婦かんごふも、一ようなんためくのか、なん数時間余すうじかんよもあんなところにいるのか
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
「また始めやがツた。」と俊男はまゆの間に幾筋いくすぢとなくしわを寄せて舌打したうちする。しきり燥々いら/\して來た氣味きみで、奧の方を見て眼をきらつかせたが、それでもこらえて、體をなゝめに兩足をブラりえんの板に落してゐた。
青い顔 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
忽ち汁を舐尽なめつくして、今度は飯に掛った。ほかに争う兄弟も無いのに、しきりに小言を言いながら、ガツガツとべ出したが、飯は未だ食慣くいなれぬかして、兎角上顎に引附ひッつく。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)