出遇であ)” の例文
宝物を拝観して後に寺のぐるりを散歩しながら自分の居る宿に帰って来ようと思いますと道で不意と一人の知って居る人に出遇であった。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
同じく宗教家の反対に出遇であい、特にソルボンヌ大学の神学部ではビュッフォンを責めて、その説を取消させてしまったということです。
チャールズ・ダーウィン (新字新仮名) / 石原純(著)
もし放擲ほうてきすれば、ほとんど進歩党は瓦解し尽し、自由党の如く政友会の下に加わらなければならぬという運命に出遇であったのである。
〔憲政本党〕総理退任の辞 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
ところが男子はそうでない、往々にして生命そのものに倦むことがある、かかる場合に恋に出遇であう時は初めて一方の活路を得る。
牛肉と馬鈴薯 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
四年ぜんに彼は一度山下で狼に出遇であった。狼は附かず離れず跟いて来て彼の肉をくらおうと思った。彼はその時全く生きているそらは無かった。
阿Q正伝 (新字新仮名) / 魯迅(著)
二人三人、世話人が、列の柵れにきつかえりつ、時々顔を合わせて、二人ささやく、直ぐに別れてまた一人、別な世話人とちょっと出遇であう。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
山中で珍らしく人と人とが出遇であつたときのやうな眼の離されないおそろしさと、同時に物なつかしい感情がかの女の胸をかすめた。
夏の夜の夢 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
それから町人ちょうにんいえよりの帰途かえり郵便局ゆうびんきょくそばで、かね懇意こんい一人ひとり警部けいぶ出遇であったが警部けいぶかれ握手あくしゅして数歩すうほばかりともあるいた。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
実際現在の東京じゅうには何処いずこに行くとも心より恍惚として去るに忍びざるほど美麗なもしくは荘厳な風景建築に出遇であわぬかぎり
其代り又手苛てひどい領主や敵将に出遇であった日には、それこそ草を刈るが如くに人民は生命も取られれば財産も召上げられてしまう。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
日が暮れてから近所の湯へ行くと、その帰りにわたくしが男湯から出ると、師匠もちょうど女湯から出る、そこでばったり又出遇であったんです。
半七捕物帳:05 お化け師匠 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
時々は興のさめるようなことにも出遇であうので、まして西洞院の鍛冶屋の隠居のように、わざわざ工作を加えたのはたいていは結果がよくない。
こども風土記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
折角せっかく飲みに行こうと云うお誘だから是非行きたいものじゃと云うのが物分ものわかれでその日は仕舞しまい、翌日も屋敷から通って塾に行てその男に出遇であ
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
いうまでもなくこの三人の者は常々不和の仲で、途上で出遇であっても碌々ろくろく挨拶あいさつかわしたことのないほどの間柄なのである。
吊籠と月光と (新字新仮名) / 牧野信一(著)
が、その内にふと嬉しく思い惑う事に出遇であッた。というは他の事でも無い、お勢がにわかに昇と疎々うとうとしくなった、その事で。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
初めのうちは青い道を行ってもすぐ赤い道に衝当つきあたるし、赤い道を辿たどっても青い道に出遇であうし、欲張って踏みまたがって二つの道を行くこともできる。
二つの道 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
時々崖に出遇であうが迂廻する必要もなく、河中に大石はあっても歩きよいし、倒木のお蔭で徒渉することは稀であった。
黒部川奥の山旅 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
あるいは又、自分がさきの世で出遇であった覚えはありながら、の世へ生れて来た瞬間にすっかり忘れてしまったものを、今改めて囁かれるような感じを起す。
小僧の夢 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
テクテクやって来るのに出遇であったものですから、それを捕えて、実はこれこれだといちぶしじゅう話したのです。
盗難 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ひそかにその機会をうかがっている中に、一日たまたま郊野こうやにおいて、向うからただ一人歩み来る飛衛に出遇であった。
名人伝 (新字新仮名) / 中島敦(著)
ず追々腕も出来て来たか、生兵法なまびょうほうは敗れを取ると云うたとえも有るから、ひょっと途中で水司又市に出遇であっても一人で敵と名告なのって斬掛ける事は決して成らぬ
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
その村で私の出遇であった昔の知人どもが、「まあ、お可哀そうに……」と言いたげな顔つきで私を見ながら、私に何か優しい言葉をかけてくれたりすると、その度毎たびごと
三つの挿話 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
その頃日本画の生徒に中国の人でなにがしというのがいた。このなにがしという人の実際出遇であったことを、私は直接聞いたのであるから、再聞またぎきの話としても比較的信用がける方だ。
白い光と上野の鐘 (新字新仮名) / 沼田一雅(著)
二人の女が姿を消したと思うと、今度は、二人の紳士に出遇であった。相当の年配である。裕福らしい身なりをして、熱のない歩き方をしている。絶えず右側を通ることを忘れない。
私は時に高畑の東にある新薬師寺しんやくしじまで散歩した。その途中で数人の知友に出遇であったりもした。あるいは夕日の暑さにろけた油絵具のかすが、道ばたの石垣に塗りつけられてあったりする。
第一の見慣れぬ旅人 三人は何等の約束もなしにこの沙原で出遇であった。
日没の幻影 (新字新仮名) / 小川未明(著)
彼女は出遇であはなかつた。おまけに彼女はそれとらずに
山羊の歌 (新字旧仮名) / 中原中也(著)
多くの旧知に出遇であうような喜びを感じるでしょう。
れから町人ちやうにんいへよりの歸途かへり郵便局いうびんきよくそばで、かね懇意こんい一人ひとり警部けいぶ出遇であつたが警部けいぶかれ握手あくしゆして數歩計すうほばかともあるいた。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
外で四時間ばかり待って居りますとようやく総理殿下(国王の実権あるゆえ殿下というなり)が大象に乗って銃猟じゅうりょうに出掛けるのに出遇であいました。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
「あんな!」と彼等は途上で私に出遇であうと、おとなしい私に恰も憎むべき罪があるかのように軽蔑の後ろ指をさして
ゼーロン (新字新仮名) / 牧野信一(著)
汽車で疲れたらしい青い顔をして這入って来て、この光景に出遇であった今、急に眼元をほころばしたのを見逃さなかった。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
かの女はセーヌ河に近いある日本人の家のサロンで、永く巴里で自活しているという日本人の一青年に出遇であった。
母子叙情 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
近来出遇であわなかったひどい寒さもやわらぎはじめたので、兄の蟄伏期ちっぷくきも長いことなく終わるだろう。しかし今年の冬はたんと健康を痛めないで結構だった。
片信 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
みちで二三の年若い男女に出遇であった。軽雲一片月をかざしたのであたりはおぼろになった。手風琴の軽い調子が高い窓から響く。間もなく自分のうちに着いた。
女難 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
これは数世紀以前から、力の弱い薄弱なる所に向って圧力を加え、侵略の手段によりて得たところの勢力である。かかる勢力はもし強い力に出遇であうと其処そこで止まる。
東亜の平和を論ず (新字新仮名) / 大隈重信(著)
と、中村に頼んで櫻川の来るのを待って居ると、天命のがれ難く、十月十五日に猿子橋でお繼が水司又市と出遇であいますると云う、これから愈々いよ/\巡礼敵討のお話でございます。
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
そんなみちみち私の出遇であうのは、ごくまれには散歩中の西洋人たちもいたが、大概たいがい、枯枝を背負せおってくる老人だとかわらびとりの帰りらしいかごうでにぶらさげた娘たちばかりだった。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
此峭壁と右側の大磐石とが出遇であった処に三丈許りの瀑が左斜に懸っている、私達の立っている位置よりは少し低い。其上に第二瀑が右斜に懸って、四丈許りの絶壁を奔下する。
黒部川奥の山旅 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
しかしほどなく重吉は会社から解雇されて、一年ちかくたった時、種子自身の口から探偵社の調査報告書よりももっとくわしい事情をば、包むところなく打明けられる機会に出遇であった。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
一寸ちょい旗本はたもと御家人ごけにん出遇であう所が、応接振りは上品で、田舎者と違い弁舌もく行儀も立派であるが、何分にも外辺うわべばかりで、物事を微密ちみつに考える脳力のうりょくもなければまた腕力も弱そうに見える
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
先度は頼長や信西の故障に出遇であって、結局はうやむやのうちに葬られたのであるが、今度はそうはならない。玉藻が雨乞いの奇特をあらわしたことは雲の上までもきこえ渡っている筈である。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
……と考えながら、下を向いて歩いて来ると、突然猟師の息子の吉太きちた出遇であった。吉太は頭からわらを編んだ長い後方うしろに迄垂れ下る妙な帽子を被っていた。れの眼はふくろうのように円く黒く大きかった。
不思議な鳥 (新字新仮名) / 小川未明(著)
ダーウィンの生物進化論もやはり同じ運命に出遇であったのでした。
チャールズ・ダーウィン (新字新仮名) / 石原純(著)
悲しみに出遇であふごとに自分が支へきれずに
寒い夜の自我像 (新字旧仮名) / 中原中也(著)
偶然出遇であってこう言った
君は書生時代の河口のように思って居るからまたネパールに行くなどという。途中でマラリヤ熱にかかるか、猛獣、強盗に出遇であって殺されたらどうするか。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
夜学校を教えるために、夜食をすますとすぐ白官舎を出た柿江は、創成川っぷちで奇妙な物売に出遇であった。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
この世の中で、いつか一度はその景色に出遇であうことがある。夢は私にそれを暗示していたのだ。その暗示が今や事実となって私の眼の前に現れて来たのだ。———
母を恋うる記 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
こういう風で十日ばかりった。或日細川は学校を終えて四時頃、丘のふもとを例の如く物思に沈みつつ帰って来ると、倉蔵に出遇であった。倉蔵は手に薬罎くすりびんを持ていた。
富岡先生 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)