黒鍬くろくわ)” の例文
この話が村方へ知れ渡るころには、小手桶をさげた貧窮な黒鍬くろくわなぞが互いに誘い合わせて、本陣の門の内へ集まって来るようになった。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
木魂こだまをしてひびく呼子笛よびこにつれて、あなたの樹林やこなたの山蔭から、狐火のごとく殺到するのは、番士や黒鍬くろくわの者の手に振る明りです。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その日はそれで済みましたが、あくる朝、黒鍬くろくわの組屋敷にいる大塚孫八という侍がたずねて来て、御主人にお目にかゝりたいと云い込みました。
三浦老人昔話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
山の手の遠方此方おちこちには、郷の者が戦に追われて、雲霞うんかのようにむらがっていた。秀吉は、黒鍬くろくわ(工兵)の組頭をよんで
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼は庭のすみのなしの木のかげに隠れて、腰繩こしなわ手錠をかけられた不幸な村民を見ていたことがあるが、貧窮な黒鍬くろくわ小前こまえのものを思う彼の心はすでにそのころから養われた。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
……いずれにしても一人では迷子になられる怖れがあるから、黒鍬くろくわの者でも案内に立てて行くがよろしかろう
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
とにかく万太郎、黒鍬くろくわの剛兵衛に案内されて、幾つの山、幾つの橋、幾つの森林を抜けたことでしょうか。足の疲れたあんばいで、十里も歩いた気がします。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
黒鍬くろくわ屋敷の内へはいると、牧野因幡守に目くばせして、縁の片隅で、ひそひそ訊いていた。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
垣隣りは、城勤めの黒鍬くろくわの者か、足軽のような軽輩な者の住居すまいらしい。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ここは、奥庭口の黒鍬くろくわ部屋でおざる。実は、あなた様を
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)