錯々せつせ)” の例文
その板の間の片隅にはたが置いてありました。私が表の方から古い大きな門を入つて玄關前の庭に遊んで居りますと、母が障子の影に腰掛けて錯々せつせをさの音をさせたものでした。
例の窓からは往來を隔てゝ時計屋の店頭みせさきが見えます。白い障子の箝硝子はめガラスを通して錯々せつせと時計を磨いて居る亭主の容子ようすが見えます。その窓の下へは時折來て聲を掛ける學校の友達もありました。
私は側目わきめもふらずに、錯々せつせと自分の道を歩き始めた時がありました。そこまで御話しなければ、斯の手紙を書き始めた最初の目的は達したとも言へません。しかし今はそれをする時がありません。
錯々せつせと水を担いで遠い井戸から主人のうちへ通ふ娘のことを書いた。
突貫 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)