せぐくま)” の例文
孫七牛は、牛舎のなかに眼を閉じて、おとなしくせぐくまっていた。角の直後の脳天に、まだ黒い血がにじんでいるのを見た。
越後の闘牛 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
隅々で七輪の火が赤々と燃え、男達が或はせぐくまり、或は立膝になりでそれを取囲み、三四十名ぎっしり詰っている。
親方コブセ (新字新仮名) / 金史良(著)
歳子はせぐくまつて、てのひらで地をそつとでて見た。掌の柔い肉附きに、さら/\とした砂のやうな花の粒が、一重に薄く触れた。それはさわやかな感触だが、まだ生の湿り気を持つて、情味もあつた。
夏の夜の夢 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
古釘のように曲った老人の首や、かいこのようにせぐくまっているどもり男の背中や、まどろんでいるおんなの胸倉や、蒼白い先達ソンダリの吊上った肩を、切傷のような月が薄淡く照らした。
土城廊 (新字新仮名) / 金史良(著)
役所の傍や銀行の脇や楼閣等にはどこにもここにも、田舎で洪水のために家や作物を流した人々が芋づるのようにせぐくまっていた。爺にはそれがひとのことのようには思われない。
土城廊 (新字新仮名) / 金史良(著)
丁度四つ角に立っている旧世紀遺物の鐘閣の前へ出るとせぐくまっていたおいぼれの乞食達は手をさし伸べ、きたならしい乞食の子供達はどこからともなく稲虫のように群がって来た。
天馬 (新字新仮名) / 金史良(著)
声のする方を振り返って見れば、雨よけの所に黒い影がせぐくまっている。
土城廊 (新字新仮名) / 金史良(著)