言問橋ことといばし)” の例文
時折、言問橋ことといばしを自動車のヘッドライトが明滅めいめつして、行き過ぎます。すでに一そうの船もいない隅田川すみだがわがくろく、ふくらんで流れてゆく。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
右の方は言問橋ことといばし左の方は入谷町いりやまち、いずれの方へ行こうかと思案しながら歩いて行くと、四十前後の古洋服を着た男がいきなり横合から現れ出て
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
根岸から出る小さな乗合自動車を言問橋ことといばしの袂で下りると同時に、おや? と、おもわず、そこに眼をみ張ったものである。
浅草風土記 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
言問橋ことといばしから遊び仲間を隅田川へ突き落したのである。直接の理由はなかった。ピストルを自分の耳にぶっ放したい発作とよく似た発作におそわれたのであった。
ロマネスク (新字新仮名) / 太宰治(著)
枕橋まくらばしの二ツ並んでいるあたりからも、花川戸はなかわどの岸へ渡る船があったが、震災後河岸通かしどおりの人家が一帯に取払われて今見るような公園になってから言問橋ことといばしけられて
水のながれ (新字新仮名) / 永井荷風(著)
むかし土手の下にささやかな門をひかえた長命寺ちょうめいじの堂宇も今はセメントづくり小家こいえとなり、境内の石碑は一ツ残らず取除かれてしまい、うし御前ごぜんの社殿は言問橋ことといばしの袂に移されて人の目にはつかない。
水のながれ (新字新仮名) / 永井荷風(著)