藺草いぐさ)” の例文
其処は蛛網の大綱がくつついてゐるはんの木の直ぐ根元でした。青い豆蜋とうすみとんぼ藺草いぐさの叢の間を彼方此方と飛びまはつて、それ/″\に猟の最中でした。
いずれも雪晒ゆきさらしによって、その白さを得ます。寒い国にも恵みは失われておりません。飯山地方の藺草いぐさの栽培と、畳表たたみおもての製造も、忙しい仕事であります。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
雨の降る日は、藺草いぐさでつくったみのぼうしをかぶって、学校へ通う。外套がいとうやレインコートはもちろんのこと、傘をもつことすら、小学生には非常な贅沢ぜいたくと考えられていた。
おにぎりの味 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
ひとしきり展開ひろがったがやがて止み、雨にぬれ足に踏まれしどろに乱れた、芒や萱や藺草いぐさの中に、三本の脚がころがってい、三人の負傷者ておい半分なかば死んで、それが捨てられて燃えている
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
側面はとれてしまい、藺草いぐさのあいだに平べったい底が形ばかり残っていた。しかしその原型は、血管まで見える、何かのけだものの朽ちた大きなあしうらのように、輪郭がはっきりしていた。
キャラコさんは、物怯ものおじしたような顔で、広い座敷の真ん中にぽつねんと坐っている。靴下をへだてて藺草いぐさの座布団の冷たさがひやりと膚に迫る。それがまた、なんとなく落ち着かない思いをさせる。
キャラコさん:06 ぬすびと (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
これ以上の案内者はない。同君が計画したという藺草いぐさ(ワングル)の上沓うわぐつは形も細工も見事であった。
全羅紀行 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)