薬方くすりかた)” の例文
旧字:藥方
姉の家の店座敷から奥のほうへ通う中央の広いへやは薬方くすりかたの仕事場にあててあって、静かな日の光が障子にさしてきているところです。
力餅 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
古い薬はいつまでも、売れて、子孫のものがよくやって行かれるばかりでなく、薬方くすりかたの番頭さんや大ぜいの小僧さんたちまでりっぱに養えるのです。
力餅 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
植松の家のやれるものは彼女のほかにないとまで言ってくれた薬方くすりかたの大番頭が意気にも感じ、これまで祖母や両親にさんざん心配をかけたことをも考えて
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ひたいつきもまだ若々しい薬方くすりかたの若者なぞが、細身のほうちょうを片手に、腕まくりで、そのまないたの前にすわったところは絵にしても見たいほどさわやかなものです。
力餅 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
その頃は嘉助同格の支配人が三人も詰切って、それを薬方くすりかたとなえて、先祖から伝わった仕事は言うに及ばず、経済から、交際まで、一切そういう人達でこの橋本の家を堅めていた。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
この馬籠訪問には、彼女はめったに離れたことのない木曾福島の家を離れ、子供も連れずであった。ただ商用で美濃路みのじまで行くという薬方くすりかたの手代に途中を見送ってもらうことにした。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
大番頭の嘉助が存命の頃は、手代としてその下に働いていたが、今はこの人が薬方くすりかたを預って、一切のことを切盛きりもりしている。ふるい橋本の家はこの若い番頭の力で主にささえられて来たようなもので有った。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
とうとう辛抱強い薬方くすりかたの前にかぶとを脱ぐ時がやって来た。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)