薄氷うすらい)” の例文
その方がその当時、一葉女史を退けては花圃かほ女史と並び、薄氷うすらい女史より名高く認められていた、楠緒くすお女史とは思いもよりませんでした。
大塚楠緒子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
いくら説得しようと努力しても、えきった胃はいっかな満足せず、薄氷うすらいのような疼痛とうつうだけをみなぎらせて、全身に力を供給しようとはしない。
煙突 (新字新仮名) / 山川方夫(著)
だが——一党四十幾名の生命をになって、薄氷うすらいを踏んでいるのだ。亀裂ひびを見たら、もう全部の潰滅かいめつである。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかし、そのながい沈黙は、私にとっては、何か心いちめんに張りつめていた薄氷うすらいがひとりでにわれるような、うすら寒い、なんとも云えず切ない気もちのするものだった。……
ほととぎす (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
薄氷うすらいを割って、勘六は腰まで水の中につかっていた——萠黄股引もえぎももひき夜討草鞋ようちわらじの片足を高く宙に揚げて。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)