苦力クウリイ)” の例文
蘆荻ろてき埠頭ふとう。——柳の街道。高粱かうりやん畑。夕日。古城壁。——最後に私は巡警の物々しい北京前門停車場で、苦力クウリイの人力車に包囲されてしまつた。
南京六月祭 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
その間に大勢の苦力クウリイどもは我々の駕籠かごの支度をするのに、腹の立つ程騒いでいる。勿論苦力に碌な人相はない。しかし殊に獰猛どうもうなのは苦力の大将の顔である。
長江游記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
この市場の中には諸種の飲食店が混在し、苦力クウリイ階級の顧客が群を成してゐる。
土人はほんの土百姓かあるいは苦力クウリイかだ。
日本脱出記 (新字新仮名) / 大杉栄(著)
殊に一人の老紳士などは舷梯を下りざまにふり返りながら、うしろにいる苦力クウリイなぐったりしていた。それは長江をさかのぼって来た僕には決して珍しい見ものではなかった。
湖南の扇 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
窑台ようだい。三門閣下に昼寝する支那人多し。満目の蘆荻ろてき。中野君の説明によれば、北京の苦力クウリイは炎暑の候だけ皆他省へ出稼ぎに行き、苦力の細君はその間にこの蘆荻の中にて売婬するよし。
北京日記抄 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
と思うと苦力クウリイが一人、鮮かな影を落しながら、目の下の波止場を歩いて行った。あの苦力と一しょに行けば、何時か護照を貰いに行った日本領事館の門の前へ、自然と出てしまうのに相違ない。
上海游記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)