耄碌頭巾もうろくずきん)” の例文
十二月の十日ごろまでは来たが、その後は登楼あがることがなくなり、時々耄碌頭巾もうろくずきんかぶッて忍んで店まで逢いに来るようになッた。
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
相手が相手だけに六助も少し考えているらしかったが、耄碌頭巾もうろくずきんのあいだからしょぼしょぼした眼を仔細らしくしわめながら小声で訊き返した。
半七捕物帳:37 松茸 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
平次の差出した提灯に照らされたのは、ねんねこ半纏ばんてんを着て耄碌頭巾もうろくずきんを冠り、浅黄の股引ももひきをはいた老人姿ですが、顔を見るとまだほんの三十前後。——毛虫眉のあごの張った少し憎体にくていな男です。
銭形平次捕物控:126 辻斬 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
耄碌頭巾もうろくずきんに首をつつみてその上に雨をしのがん準備よういの竹の皮笠引きかぶり、鳶子合羽とんびがっぱに胴締めして手ごろの杖持ち、恐怖こわごわながら烈風強雨の中をけ抜けたる七蔵おやじ、ようやく十兵衛が家にいたれば
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
ふだんから僕を可愛がってくれる祖母が一種の耄碌頭巾もうろくずきんのようなものをかぶせてくれたので、僕はその頭巾のあいだから小さい目ばかり出して、北の方を向いて足早にあるいて行った。
探偵夜話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)